【前回記事を読む】亡き父を白い包帯で何重にも、何重にも覆い続けた少女──その時彼女の中で膨れ上がっていたものとは

三.虫首(バッタ)

晶子はイチコがお気に入りの服に目をつけた。かわいいアニメキャラのクモがプリントされている。彼女は軒下のクモに目をつけると、その巣もろとも鷲づかみにした。

クモの八本の脚を一本一本丁寧にむしり取る。最後は丸い胴体を指ではじいて池に投げ捨てると、すぐにコイが丸呑みした。晶子は満足気な顔で、手にねばねば絡みついているクモの巣をイチコの髪の毛にゆっくりしつこくなすりつけた。

「こんなところでクモを飼うのはよしておくれよ。私って不潔なのがダメなのよ」

彼女が去ってからも、イチコは床に散らばったクモの脚をじっと見つめ続けている――

「これで終わりですか。腹が立ちますよね。ひどい女だ」

「クモが虐殺されたのを見て無性に頭にきたわ。そこで復讐を決意したの」

「復讐って、どんな?」

「数日後のことだった。廊下の手前の部屋に私は潜んでた。晶子がやってくるのをじっと待ってたの。御覧なさいよ。魔女玉が見せてくれそうだわ」

――渡り廊下をまた晶子が歩いている。どこかへお出かけだろうか、背中の大きく開いた豪華なドレス姿だ。ところが彼女に向かってイチコが後ろから駆け寄った。片手に丸く膨らんだ黒いビニール袋を握っている。

「おい待て!」

晶子は振り返り、待てとはなんだと片手を上げた。

イチコは顔をめがけて袋の中身をぶちまける。中にはバッタやゴキブリ等々、無数の虫が詰まっていた。

晶子は悲鳴を上げた。頭についた虫たちを両手で払いのけようとしている。その機を逃さずイチコは腕に差していたドーナツ型のガムテープからテープを引き出し、素速い動きで晶子の両足に巻き付けた。続いて腕もろとも身体中をぐるぐる巻きにすると、ついに晶子は転倒した。大声でわめき立てるが、イチコは攻撃をやめない。

転がった胴体をイチコは両手で押している。やがて晶子は水しぶきを上げて池に落ちた。

晶子は苦労しながらも池の底に足をつけ、あごから上を水面から突き出して喚く。しかしバランスを崩してまた水没する。錯乱した彼女を見てイチコは冷笑した。

やがて物音に気付いた使用人が慌てて駆けつけ、池から晶子を引き上げた――

魔女玉の映像はそのイチコの笑顔をクローズアップしながら薄れてゆく。

「私はそれなりに覚悟していたわ。追い出されるのか、あるいは折檻されるのかって。でもじいちゃんは何も言わなかった。怒りもしない。なぜか晶子はその家を去ってしまったわ。うわさだと、彼女はキリオの悪口をよく漏らしていたそうよ。昔キリオに言い寄って無視された恨みがあったみたい」

「やるときにはやる人だったのですね、子供の頃から」

イチコは照れたように片手を振った。