四.虫首(スズメバチ)

「虫首はまだもう一つありますよ」

店長が催促するまでもなく、三つ目のスズメバチはもうイチコの口の中にあった。

「あれを見て」

イチコは魔女玉を指さした。

「おやっ。これはどういうことでしょう。真っ黒な魔女玉の中にろうそくの炎がまっすぐ立っている。魔女玉全体が悪魔の目のようだ」

「これはじいちゃんの道場みたいね。屋敷の離れにあったのよ。私は暇さえあればここで修業を重ねた。暗い部屋で無心でろうそくを見つめるの。初めは集中力を高めるためにさせられた。けどいつの間にか大好きになったの。おかげで集中力はぐんと伸びた。おまけにそれ以上のものを手に入れた」

「なんですか、それ以上のものとは?」

「たまに炎の中にあるものが見えるようになったの。得体の知れない魔物の目のような気がした。見えるというよりも、魔物のような存在からじっと見つめられている、そんな感覚を覚えるようになったというべきかしら。

初めは断続的だったけど、やがて連続的に感じるようになった。その存在は善なのか悪なのか、それは分からない。でも少なくとも、この私には好意的な存在だったわ。いずれにせよ、そうやって炎を見つめていると、炎の向こうから送られてくるエネルギーを感じるようになったの。そしてこの肉体に異変が生じた。

そのいい例がいまから見られると思うわ。たしか十五の誕生日の夜だった。私の武術の技は驚くほど進歩して、あのじいちゃんをしのぐ勢いだった。

そこで卒業試験みたいな試合を設けてくれたの。手にする武器は何を使ってもいいという真剣勝負だった。間違って死んでも文句は言わないという約束もした。もちろん基本は寸止めだけど、ぎりぎりまで攻めるという約束だった」

――魔女玉が明るくなった。大きなろうそくが何本も炎を上げている。そこには真剣を手にして上段に構えた源次郎と、ナイフを逆手に持った低い姿勢のイチコとが、数メートルの距離を置いて対峙していた。他に人はいない。

「本気で行くぞ。よいな」

源次郎の静かな問いかけにイチコは無言のままうなずいた。だがしばらくは双方動きが見られない。お互い隙がなく、体力と神経の消耗戦だった。

しかし、長かったろうそくがもう残り三分の一ほどになったとき、ある音がした。一匹のスズメバチが、たまたま羽音を立て迷い込んできた。するとイチコは不意に立ち上がった。そして道着の前襟を大きく開いた。これにはさすがの源次郎も面食らった。小さな乳房が露わになったからだ。

 

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