暖かい冬

年が明けてから、厳しい寒さがない。

本来なら、身に付けているものを、一枚一枚剥(は)いで行く様に、春の訪れを味わって行くのだが、その楽しみも嬉しさも感じない。今年は暖冬との評判をその儘(まま)、映し出した様な、季節の移り変わり。とでも言った方が良いのであろうか。

デパートや小売店では、「冬物衣料の売れ行きがさっぱりで、早々に春物への転換が、余儀なくされている」

と、先日会った某デパートの社員もこぼしていた。何かがおかしくなって来ている様だ。

「夏にもしかすると、雪が降るかも知れないよ」

帰宅後、冗談半分に妻に話した。そう言えば、庭の桃の木が、此処数日の間に急に蕾みが膨(ふく)らんで来た。何か急がなければ、と慌てたのであろうか。

しかし、まだ三月になってもいない、手放しに喜んで良いのかな? 春はそんなに早く訪れるのだろうか。此処福岡県糸島郡へ、引っ越して来てはや十年以上が過ぎ、夫婦二人だけの、田舎暮らしも、だいぶ慣れて来た。

私も毎日、福岡市内への通勤もリズムに乗って来ている。しかし、常に東京に残して来た、二人の娘達の事は頭から離れない。長女章子(あきこ)と次女雅恵(のりえ)である。

本来なら、一緒に此処で住みたかったのであるが、成人している二人の都合もあり、東京を離れたくないとの事で、止むを得なかった。その長女が、漸く伴侶を得て、そして、昨年九月に子供も生まれた。

二月も一週間を過ぎた頃、待ちに待った孫がママ(長女)と一緒に帰省した。最初は一月に来るとの事であったが、当方に事情があったので、二月に延期してくれたのである。

酷寒の冬に来なくても、と心配する人もいたが、長女が産休の都合で、もう四月の半ば頃から勤務を再開するらしい、とのスケジュールもあり、止むを得なかった。到着の日はウイークデーだったので、妻が空港まで迎えに行った。

私も行ってみたかったが、勤務中である、仕方がない。最近は航空関係もサービスが行き届いて、幼児を伴う旅行も、母親の手が楽になる様に気を使っている。

搭乗する時、持参のベビーカーは、その儘荷物として預け、社名の入った航空会社のそれを借りて、機内まで押して行ったそうだ。そして座席も特別に確保して、簡易ベビーベッドも、座っている前に、取り付けてくれたと。

長女が生まれた、昭和四十年代の半ば頃では、そんなサービスもなく、妻と交代で機内でじっと抱いて、腕が疲れた記憶がある。まあ、四十年近くも経てば、それなりの変化もあるのだろうが……。