第8点、省略。上告理由なし。
その他、本事例に関して、以下の点についての論点が記載されている。本事例は死亡診断書を作成すべきか死体検案書を作成すべきか。病死か変死か。異常ありと認められるか否か。
医師法施行規則第9条の精神は、犯罪の疑いある屍體に対して、犯罪の消滅及び証拠隠滅を防ぐ目的で設けられたものであり、本事例のごとく犯罪の疑いないものに適用することは正当や否や。大審院は原審を支持し上告を棄却した。
本判決の意味
本判決は、使用する漢字も、『死亡』と『屍體』を使い分け、「死亡診断書」と「屍體検案書」をも使い分けている。
本判決文の文字の使い分けの趣旨は、医師が診療していて死亡したものは「死亡診断書」の対象であり、本条文による『異常屍體』の届出の対象ではないことを示している。
即ち、警察に届けなければならない『屍體』とは、死後多少の時間が経過し、だれが見ても、死亡していることが確実な『屍體』で、医師の診療を受けていない『屍體』を指すものである。
「屍體」であると「認識していた」ことが必要であるとの弁護人意見を容認したものと思われる。大審院判決は、医師法施行規則第9条の届出対象は、医師の診療を受けていない(死亡診断に該当しない)屍體であって、医師が屍體であることを認識していたものである。
屍體に『異常がある』とは、死亡原因が疾病でないと認める状況が屍體に存するものであり、内発、外発いずれも(一切)含むとした。
また、通常は犯罪の嫌疑あるものが対象であるが、検案して屍體の外表に病死ではないと認める異状(頭蓋骨骨折)を認める場合は犯罪の有無にかかわらず届出対象であると判示したものであろう。
原因説、結果説に偏らず、客観的な「外表の異状」を根拠とした判決と言えよう。
『異状』と『異常』の使い分け
『異状』と『異常』の使い分けについて筆者は、そもそも人間は健康な状態が「正常」であり、健康な状態と比べたときに「おかしい」というのが異常である。
死体の皮膚(外表面)はそもそも「異常」なのである。したがって、皮膚(外表面)が人間として正常ではないが、死体としては問題ないと考えられる外表面の状態(普通の状態)を医師法第21条は『異状なし』という単語で表現したと考えて来た。