【前回の記事を読む】「仙一は女の子に夢中で、飴どころやなかったんや」──昭和の商店街。少年の恋? 飴細工より甘かった視線の行方

2.夜店の少女

仙一と並んでいた一夫の顔も真っ赤になった。

しかし、話をしながらもタエの視線は、仙一の顔から徐々に下がって、衣服をまとったその中を品定めしている節がある、何時もの事だが。

仙一は、まだ18歳の若者ではあるが、既に立派な風格のある大人のというか、体格が衣類の外からも感じられる。それは力仕事によるものと、受け継いだ血筋か。一夫と比べても仙一との違いが分かる。

仙一は、自分自身の身体の奥深いところで変化が訪れている事は自分でも気がついていた。それは、若い成長期の青年が誰でも体感する、思い通りにならない性的な欲望で、その鬱積が成長と共に身体の芯に大きな塊となってそれが仙一にも起こり始めていた。

少年が、自分の身体が大人に成ろうとする変化に、客観的に気がつくのではない。時には異性を見て身体が反応する。仙一もそれはもう数年前から徐々に体現してきていた。それが大人になる事であり、人類の全てが通る公平な試練、いや成長であった。

それを、歓びと捉える若者が殆どで、仙一の様に戸惑いを感じる人も少なくはないのだが。

仙一の働いている酒造会社の前、市電の線路を渡って直ぐ向かいに、少し端が傾いた中二階建ての古い家があった。その家に8歳位の男の子がいた。8歳位というのは、越前の尚が10歳なので、それよりは小さいからそう思ったのだった。仙一はその子が少し気になっていた。

その少年を見ると、色の白い華奢な事も相まって越前の尚を思い出してしまうのは尚も色が白く、体格がその少年とよく似ていたからか。暮れの正月休みの帰省まで、尚には会えない。

今頃、尚はどうしているのか、一恵は母のお手伝いを頑張っているのか。

その少年を見るたびに、そんな想いで郷愁を掻き立てられる。彼らと離れて遠いところに自分はいる。

そして仙一は今、将来を見通せない焦りが常に付きまとい、愛する家族達への距離を更に強く感じていた。

仙一の働いている造り酒屋には、ペンキの剥げた薄水色の古い大きな木造の門があった。営業車をはじめ、休日以外の昼間は誰でもが自由に出入りが出来るように開け放してあった。

その横の通用門も、特別の時を除き夜間でも、常に人が出入り出来るよう施錠はされていなかった。その門を入って直ぐ右方、御影石で出来た数段の石段を上がると事務所があり、主に、そこでは搬入搬出の書類、納品、出品伝票にハンコを押してもらったり、その他諸々の事務手続き全般を処理する為の所だった。

いわば、そこが会社の玄関であり、顔でもあった。