【前回の記事を読む】浴衣をまとう肉付きの良い尻が、手の届く距離で動く。まるで誘われているかのような錯覚と、触りたい衝動が起こり…

3.誘惑の白い肌

いきなりの事で抵抗も出来ないまま、ましてや後ろから仙一を手で掴む様にされたのでは他に道はない。いや、これは今まで自分が求めていた事だ。

女の豊かな経験と、その熟達した誘いが、否応なしに仙一を一気に性の世界へと導いた。

初めての事とはいえ、本能に全てを支配され、女と対等に対峙するまでにそんなに時間はかからなかった。そして仙一にとってはその時が、初めて女性を経験する事となった。

あれから数日が経った。

仙一は、あの日の出来事はまだ誰にも話していない。先輩の一夫にも、あの時の事は話していない。あの時は幸い、夕食の時間にはなんとか間に合って、おばさんにはそれ程の迷惑もかけずに済んだ。もし、一夫にあの出来事を少しでも話せば、根ほり葉ほり聞き出され、裸にされ、彼女との関係を、たちどころに陽の当たるところに晒け出されてしまう。

一夫が相手では、少しでも話せば、糸口を掴み饒舌で捲し立てられ、どんな些細な事にも秘密が持てない。仙一は、あの時のあの出来事に囚われつつあった。

自分の身体全体で、女との隙間のない密着した肌と肌。

隠微な動きで奥深く繋がる、目眩く時を超えた官能の嵐の中。

頂点までの、狂った時間の観念が支配する、現実と隔たりのある異世界。

あの事があったあの時から、仙一は自分の気持ちと、物を見る全ての視点が変わってしまった。

専務の藤田とは、時々事務所で顔を合わせるが、八重子の事は専務がお膳立てをしたのではないかと憶測するよりも、むしろ確信となりつつあった。

藤田と事務所で顔を合わせた時、包みを届けてもらったお礼の言葉はあった。

あの日、藤田の口の端に浮かんだ微妙な意味を含んだ笑顔が、仙一は気になっていたが、やがて仙一はそれを好意的に捉えて藤田の、仙一が大人になる儀式をお膳立てしてくれたのではと、考える様になった。男女の世界でそんな好意的な事などある筈もないのだが。