【前回の記事を読む】「やっぱり大きかったわ」着物を巻き付けただけの姿で、背中に身体を預けてきて…耳元で囁いた。

4.家族への想い

仙一は、一夫と二人で京都駅前の丸物百貨店へ出かける事になった。

一夫が、前日の土曜日から煩い程、仙一に付いて回って丸物百貨店へのお出かけの計画を練り、予定をたてる。

「なぁ仙一、明日(あした)丸物へ行く時何を着てゆくねんや」「仙一、儂は丸物の食堂でオムライスか、ハヤシライスが食いたいねんけど、仙一は何を食べる?」とか「仙一お土産は何にするんや」と、お膳を用意しながら付いて回る。

仙一は本当は「一夫、うるさいからあっちへ行っとけ」と言いたい言葉を飲み込んで、黙って苦笑し乍ら一夫の振る舞いを許す。

他人が見ればどちらが先輩だか分からない。

それもその筈、年齢は一夫の方が一つ上だが、二人の話や素ぶりを見ていると一夫は子供っぽく、仙一より体格も遥かに小さい。まるで仙一の側を喜び勇んで走り回る仔犬の様だった。

当日は朝からよく晴れ、出かけるには最適の天気になった。

会社の門を出て直ぐの、丹波橋停留所から市電9番の京都駅行きに乗り、京都駅前 の丸物百貨店が目的だった。

一夫も、弥平と同じ地域に住んでいた縁で、弥平に誘われて香住からの蔵人は、今年で3年目になる。帰郷する時の母や父への土産を探す目的は仙一と同じなのだが、一夫はそれよりも食事と、屋上の観覧車が目的の第一候補だった。

京都駅前の丸物百貨店の屋上にあるその観覧車は、子供が主に乗る乗り物だが、屋上の、さらに上から眺める3、4分程の、京都市街の眺望を楽しむ。