【前回の記事を読む】念願のハヤシライス。綺麗な皿に盛られた、白いご飯と赤茶色のトロっとしたスープ。しかし本当は別の物を注文したかった。それは…
4.家族への想い
一夫は、一人で狭い観覧車に乗り丸物の屋上からの360度の京都市内の展望を楽しんでいる様だった。仙一は屋上で観覧車から手を振る一夫に笑顔で手を振って答えながら、家族への想いも重ねて、先の見えない不安定な気持ちに陥りかけていた。
帰郷のお土産を買い終えて百貨店の外に出ると、11月に入った京都はそんなに遅い時刻でもないのに、陽は落ち外はもうすっかり暗くなっていた。仙一と一夫は、それぞれの買った土産物の包みを抱えて、御影石を敷き詰めたレールの上を歩いて市電の駅に向かった。
駅といっても京都駅前も、他と同じ15センチ程の高さのコンクリートのプラットホーム。日曜日の夕方という事もあって、車内は買い物帰りの客で大変混雑していた。
一夫は、乗り込むなり厚かましくもそそくさと座席に座ったが、仙一は遅れを取った。混雑の中、人に揉まれながら一夫の前のつり革を持って立った。
一夫の座った隣のシートには、身体の大きい仙一には、どうせ座り切れなかっただろうその隙間に、そそくさと小太りの中年過ぎの女が照れを隠してか、無表情を装い隙間を埋めて座った。
仙一達を乗せた市電は、キーキーと甲高いレールの軋み音を立てながら直ぐのカーブへ動き出した。塩小路に入り、速度を増しながら次のカーブまでの短い直線を走り出した。
混雑した車内の乗客は、みんな倒れないよう、つり革にしがみ付き、まるでラインダンスでも始まるかと思える様な動きで、電車の揺れに身を任せた。
電車は国鉄のアーチ状の鉄橋を通り抜け、右から左に折れると一路、伏見に向かう。
途中の大石橋駅で、数人の乗客が乗ってきた。
その中に、地味な和服姿の女が一人、何気なくその人を見て仙一は慌てた。
咄嗟の事で、何故慌てたのか自分でも分からないが、それは紛れもなく八重子だった。
仙一からは離れていて、彼女は仙一の事には気づいてはいなかった、暫くの間は。仙一は、心臓の早鐘の打つ、とてつもなく大きい音を自身の耳で聞いていた。
一夫もそんな、仙一の視線の先の車内の端にいる八重子の姿を人混みの間から捉えた。一夫は、座席の低い位置から上目遣いに、人混みの隙間を窺う様に仙一と八重子を往復し始めた。仙一に何があったのか、あの女と仙一は何処までの関係なのか、そういう事にかけては誰よりも敏感な一夫だった。
そういえば、仙一は数日前の夕方、配達から帰ってくるのに大分時間がかかって、食事の支度に遅れた事がある。食事の後、仙一は何故か、自分に何も言わず先に風呂へ入った事があった。
その時の仙一を、一夫は思い出した。