【前回の記事を読む】貧血の女子に水筒を手渡した。僕の水筒に彼女が口をつけたということは…考えた瞬間、一気に身体が熱くなって、彼女は…
第一章
貧血持ちの人を前にしたとき、どうしたらいいんだろう。家に帰った僕は、ベッドに寝転びながらスマートフォンを操作し、調べていた。
そんな自分の行動に気づき慌てて、目の前でもし彼女と同じような状態の人がいたらすぐに対応できるように、と心の中で誰ともいえない誰かに答えて検索を続けた。
調べたところ、水分補給は正解だったらしい。また、低めの姿勢を取るのも大事だと書かれていた。自分の取った行動を思い返し、胸を撫で下ろす。奇跡的にうまく処置できていたようだ。
それから気づけば、彼女のことばかりを考えるようになっていた。彼女が貧血になっていないか、ちらちら授業中に振り返ることもあった。貧血の人にいいと言われるフルーツや飲み物を渡したりもした。
「野上くんは優しいね」
彼女はにこっと微笑んで、それを大事そうに抱いた。
彼女が体調を崩し、保健室にいるときは、僕も体調不良を訴えて保健室に行くようになった。授業をサボろうなんて思わなくなった。彼女がいるところへ自分も行きたいと思った。
彼女は貧血のくせに、いつも明るい笑顔で僕を笑わせてくれた。怪我でサッカーができなくなり、退屈した毎日を過ごしていた僕に、鮮やかな彩をくれた。自分の体調不良はどうしたのか。訊いたら、「野上くんと話していたら自然と治っちゃった」とあっけらかんとした表情で答えた。ますます彼女を愛おしく思うようになった。
そしてある日、なんの前触れもなく保健室でいつものように話していたとき、つい、本当につい、ずっと出せずにいた言葉を、僕は口にした。
「好き」
言ってから、はっとした。僕はなにを言っているんだと。とんでもないことを口にしてしまったと思って、顔を上げると、彼女は驚いたように顔を固めていた。
「ごめん」
「どうして、謝るの?」
僕は答えなかった。答えられなかった。自分でもなにに謝ったのか、わからなかったからだ。
「……、私も好きだよ」
やがて彼女は長い沈黙を破り、いつもみたいにあどけない表情で答えた。
なんだろう。なにかわからないものが、ものすごい勢いで胸に込み上げてきた。身体が一気に火照っていくが自分でもわかる。そして、気づいたときには、もうそれは衝動的というような感じで、僕は彼女の背中に両手を回していた。
彼女も同じように僕の背中に両手を回した。
これが僕と遥香のはじまりだった。
以降、僕はこの日の遥香への告白をずっとずっと後悔するようになった。
遥香との毎日は本当に充実したものになっていった。お互い部活に所属していなかったため、一緒に下校をした。僕の家と彼女の家は真反対だったので、下校といっても、近くの土手で話すだけなのだが。
あれほどサッカーに生きていたのに、汗をかきながら必死に走っているサッカー部を見ると、不思議と妙な優越感が生まれた。