【前回の記事を読む】「高校生の分際で…」…それが発覚した時、彼女の両親は害虫を見るかのように僕を見た。きっと一生許されないことをした。
第四章
ずっと遥香に会いたいと思っていたのに、地図アプリでこの家を見つけたときに喜び、ここに来るまでの間もこの家が遥香の家であることを願っていたのに、今はこの家が遥香の家であったことを嘆いている。どうしてここに来てしまったのだと、僕を恨む僕がいる。いったいどの感情が本当の僕なのだろうか。
やはり今日は諦めて帰ろう、そう思ったときだった。
「うちになにか御用ですか?」
突如として聞こえた声に、ドキリと胸が大きくなる。恐る恐る振り返ると、そこには一人の老婆が立っていた。年齢は八十歳くらいだろうか。白髪が目立つが、杖はついておらず、姿勢もいい。足腰がしっかりしているのだろう。
「あ、いえ。僕は……」
急な展開にまったく反応できずにいる僕を見て、老婆は明るく口を開いた。
「わざわざ来ていただいたのに、留守で申し訳ございません」
「ああ、いや僕は……」
「さあ、どうぞ。上がってください。今開けますから」
老婆は門を開け、僕を中に入れると、玄関まで進み扉を開けた。ここまで来てもう引き返すなどできない。笑顔で手招きをする老婆を見て、仕方なく家の中に足を踏み入れることにした。
老婆が留守といったのは本当のようで、家の中には誰もいないようだった。遥香の両親が不在であったことにわずかに安堵する。老婆に促されるまま、リビングに向かうと、四角いテーブルと椅子が四つ並べられていた。
「どうぞ、座ってちょうだい」
変に怪しまれないよう、素直に座ることにした。
「もしかして、玄関の前でずっと待っていらっしゃった?」
「ああ、いや……まったく」
老婆は「それはよかった」とパッと明るい表情を見せた。
この老婆は玄関の前に立っていたというだけで、見ず知らずの人間を誰でも簡単に家の中に入れてしまうのだろうか。この時代には高齢者を狙った訪問詐欺が増加しているという。それなのに、この老婆はなんて警戒心が薄いのだろう。もちろん、自分は詐欺師ではないが、この家からすると、それと同等に招かれざる客であることに変わりはない。
「今年も暑いわね」
老婆はクーラーの電源をつけると、お菓子やお茶の準備をしている。本当に警戒心もなく、僕に背中を見せている。僕が刃物を持った強盗の可能性もあるのに、随分と呑気な人だ。
「冷たいから美味しいよ」
老婆はお茶とお菓子を差し出すと、僕の目の前に腰を下ろす。緑茶とせんべいだ。
「あの、僕のこと、訊かないんですか?」
思い切って気になっていることを訊ねてみた。別に根掘り葉掘り訊かれたいわけではないが、あまりに興味を持たれないと、それはそれで不安になってくる。