学校のない日に二人で出かけたこともあった。高校生の身分だから、行けるところは限られているけれど、すごく楽しかった。たくさん撮った写真は、二人の大切な想い出になっていった。
そして、高校三年生の九月、僕たちは初めてお互いの隅々まで見せ合った。薄暗い部屋の中で、汚い感情も欲もなく、遥香のすべてを知りたいという気持ちと、ほんのわずかなぎこちなさを含んだ配慮のうえで、僕たちは互いに愛を育んだ。
僕らの行為は当然の理だった。大好きで、愛していたのだから。本当に幸せだった。僕が遥香を一生大切にしていこう、一生隣にいようと決意した日だった。
遥香の様子がおかしくなったのは、それから四週間が経過した頃だった。吐き気や眠気に襲われ、保健室で過ごす時間が長くなっていった。
重い貧血だろうかと思っていた。僕はその度に、前に調べたときに見つけた貧血の対処法を試した。それが浅はかな考えと行動であったことは、それからさらに一週間が経過してから知った。
その日は学校が休みで、一日中冷たい雨が降っていた。なにをするでもなく、家でだらだらと過ごしていたとき、家のインターホンが鳴った。十六時だった。
家は二階建ての戸建てで、一階の玄関で母が誰かと話している声が聞こえた。話の内容まではわからない。打ち付ける雨音のせいで、二階にある僕の部屋までは届かなかった。
それから、母の階段を少々乱暴に上る足音が聞こえ、勢いよく僕の部屋の扉が開かれた。
「あんた、どういうこと?」
ひどく怖い顔をしていた。何事だろうか。ベッドに寝転んでいた僕は、
「緑川さんって方が来てるよ」
母の言葉が形となった刹那、部屋を飛び出し階段を駆け降りた。
よくわからないが、なにか不穏な空気を感じたのだ。
「遥香……」
一階のリビングには愛する遥香と彼女の両親と父が揃っていた。両親は初めて顔を合わせる。僕を見るなり、母が僕に向けたのと同じくらいの怖い表情を浮かべていた。
「君はうちの娘と付き合っているのかな?」
母がリビングに入ってくるやいなや、遥香の父親が口を開いた。
「は、はい。遥香さんとお付き合いさせていただいてます。野上ゆ……」
「軽々しく名前を呼ぶな!!!」
突如、遥香の父親の激しい怒声がこだました。
なんだ? なにがあったんだ? 突然のことに、僕は情けなく肩を震わせてしまった。
遥香の方はずっと下を向いて俯いている。この状況がただ事でないことを想像するのは容易なことだった。
遥香の母親は泣きながら、声を震わせた。
「どうしてうちの娘なんですか? どうして……。他の子でもよかったでしょう。どうして……」
たくさん泣いたのか、真っ赤に染まった目は、僕を軽蔑するような鋭い目をしていた。
次回更新は1月13日(火)、11時の予定です。
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