ある時、金之助がSに、自分は静のことが好きだと打ち明けた。Sは悩んだ末にこう答えた。
「個人主義でない者は馬鹿だ」
すると金之助は
「僕は馬鹿だった」
と言った。
二人はよく個人主義の話をしていた。個人主義は万能で、あらゆる辛いことや、うまくいかないことを解決してくれる思想だった。そして、恋に関しての個人主義の答えは、個人主義者は個人主義の人と結婚するということだった。それが二人の結論だった。そして静は、女学校に通う当時の平均的な知的女性の一人であるにすぎず、残念ながら、真の個人主義者ではなかった。
この、金之助が打ち明けた話は、静に聞かれていた。