罪と愛
僕が高校を卒業した後、二人の女性の友達ができた。一人は千代と言い、もう一人は奈々という。
その日も僕は仕事が終わってから、千代と話していた。
「今日は何の小説の話する?」
と彼女は聞いた。
「太宰治の『富嶽百景』にしよう」
と僕は言った。
「太宰は富士山を俗だと言って嫌っていたよね」
「うん、だけど、乞食らしき人を見つけると、名のある聖僧かもしれないと言って、冷淡な友人にほめていたよ。だから僕の解釈はこうだ。太宰治は俗なものが嫌いで、みんなが良いと思っているものは実はくだらないもので、一番俗なものなんだ。そして、みんなが軽蔑するようなものは、実は隠れた価値があり、俗でないものなのだということを言いたいんだよ」
話しながら、僕は昔のことを考えていた。僕は小学校の時から高校まで孤独だった。僕はみんなの言う「変人」だったからだ。金はあるが僕の心の中は虚無感でいっぱいだった。その空っぽな心を満たしてくれるのが、千代だった。彼女も僕と同じ変わりもので、友達がいなかった。そして僕と気が合った。そんな人と会ったのは初めてだった。しかし器量はと言えば、お世辞にもかわいいとは言えず、実は隻眼だった。