会社へ向かう途中で課長は妙な胸騒ぎを覚えた。直後にそれが気のせいではないことを知る。呼ばれたのだ。それも、葵が今熱心に相談へ乗っている轟雛菊から。

「なぜあの子が……?」

死神を呼んだ者が誰を助けたがっているのかまでは分からない。しかし嫌な予感がする。

これはきっと単純な命の譲渡では済まない。打算や悪意、それから大いなる野望が渦巻いている。課長は珍しく冷静さを欠きながら現場へ急行した。

その道中で苦い思い出がよみがえった。まだ無力な人間だった頃の記憶が。

息を切らせて雛菊の高校へ着いた葵は少し拍子抜けした。生徒たちが普通に登校している。運動部が朝練をしている。なんらおかしな点はない。てっきり赤色灯のひとつやふたつが見えるものだとばかり……。

ただ、雛菊と連絡が取れないことに変わりはなかった。

電話を掛けてもすぐに『おかけになった電話番号は現在……』と自動音声に切り替わってしまう。問題はまだ解決していない。

「とにかく課長に報告しなきゃ」

「葵さん」

その瞬間、背後から名を呼ばれた葵は冗談でなく今までの人生で最も驚いた。少なくとも記憶がある中では。おそるおそる振り返ると、そこには探し求めていた少女がいたのだ。今日は特に冷え込むのでコートを着ている。

「雛菊、ちゃん?」

「はい」

「ほ、本物……?」

「失礼ですね。目の前に立ってるじゃないですか。幽霊じゃないんだからちゃんと触れますよ」

そう言って雛菊は手を差し出した。おっかなびっくり握ってみると間違いなく感触がある。その事実を確認した途端に葵はヘナヘナとその場にへたり込んだ。

次回更新は11月14日(土)、11時の予定です。

 

👉『差出人は知れず』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】不倫して4年が経った頃、彼と初夏の信州へ。昼は景色を眺め夫婦のように寄り添った。夜は熱い口づけと抱擁。その肌のぬくもりは今も忘れられず…

【注目記事】何度かデートした男を振った結果…「ここではできない話がしたい」と言われ、なぜかホテルへ——「頼む! 見るだけやから! ホンマに!」と懇願してきて……

 

ゴールドライフオンライン(GLO)は、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン(GLO)編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp