翌朝、葵は雛菊からの着信で目を覚ました。
「ふぁ……もしもし?」
「すみません。起こしちゃいましたか?」
「あ、ううん。もう起きるところだったから大丈夫。雛菊ちゃんこそ早いね? どうしたの」
「……」
「雛菊ちゃん? もしもーし――」
「短い間でしたがお世話になりました」
まだ脳が覚醒しきっていない葵はその言葉の意味を理解するのに時間が必要だった。
「え、ち、ちょっと待って……。今、なんて?」
「葵さんのおかげで希望が持てましたので、お礼だけでも伝えておこうかと。もう会えないかもしれませんし」
「会えないって、待って。雛菊ちゃん今どこに――」
そこで通話が途切れた。これは只事ではない。
すぐさま電話を掛け直したが案の定『おかけになった電話番号は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため掛かりません』と告げられる。
鬼塚とも連絡先を交換しておけば良かったと後悔したが今は時間が惜しく、葵は化粧や朝食はおろか寝ぐせすら直さずに家を飛び出した。
雛菊は早朝の教室にノコノコと現れた山田を見て昏い笑みを浮かべた。後ろに回している手に自然と力がこもる。こんなにも単細胞だとは思わなかった。
「あ? なんで轟がいんのよ」
「今まで怖がらせてごめんなさいね」
「は?」
「楽にしてあげるから」
雛菊は音もなく歩き始める。歌うように、そのまま踊り始めるのではというほどの軽やかな足取りで。
両手でしっかりと銀色の刃を握りしめながら。
「えっ」