【前回記事を読む】「犯罪者の娘」噂が流れて…机の中に使用済みのものが詰め込まれ、ローファーには液がかけられた──少女はカッターを取り出し…
Case:C 娘の選択
山田梅(やまだうめ)にとって轟雛菊は常に目の上のたんこぶだった。腹が立つレベルで整った容姿とスラリとした体躯。おまけに名前まで可愛い。
好きな男子から「お前の名前ってばあちゃんみたいだよな」とからかわれた経験がある梅にとって許しがたい事実だ。
当然ながらあんな人間を男子たちが放っておくはずがない。あろうことか好きな男子からも「ごめん、俺、轟のことが好きなんだ。全然相手にされてないし、口すらほとんど聞けてないけど」とフラれてしまう始末。
だから梅はグループを作って雛菊をイジメるようになった。幸い、雛菊のことを嫌っている女子はすぐに見つけられた。一致団結するには共通の敵を作るとはよく言ったものだ。
想定外だったのは雛菊がヤクザの娘だったことである。それを知るとゾッとして、いつ仕返しされるか恐れる日がしばらく続いた。ただ、それも長くは続かなかった。
調べると、今のヤクザは相当苦しい思いをしながら生きているらしい。しかも雛菊の父親は無期懲役で服役までしている。そんな娘から酷い目に遭わされたとなったらすぐに警察が介入するだろうし、間違いなく退学だ。世間はこっちの味方になるに決まってる。
轟雛菊はアタシには絶対歯向かわない。その事実が山田梅を増長させた。ただ、雛菊には底知れぬ恐ろしさがある。いつか何か大きなことをしでかすのではないか。そんな不安が拭いきれない。
だから雛菊を排除したかった。元来、イジメとは恐怖対象を排除したい欲求からくるモノであることも知らないまま。
ただ、そんな彼女でも下駄箱の異変にはすぐに気づいた。
封筒が入っている。差出人はない。しかしわざわざハートのシールで留められているところを見るとラブレターなのだろう。
「いまどき紙のラブレターて昭和か」
中を見ると『明日の朝。七時に教室で待っています』とだけ書かれていた。
まぁ、悪い気はしない。相手は誰だか分からないが、どの教室を、と指定していないので十中八九クラスメイトのはずだ。
雛菊と同じクラスになってから浮ついた話とはトンと縁がなかったので山田は少し浮かれながら明日を待った。