二〇〇四年六月、広島県と広島市が条例で公営住宅の入居資格について『本人とその同居親族が暴力団対策法に規定する暴力団員でないこと』と規定した。暴力団排除が規定された条例はこれが初めてである。
これ以降、佐賀、京都、福岡などで暴力団を排除するための条例が次々と施行され、ヤクザは徐々に、しかし確実に首を絞められていくことになる。
「それにしてもよく勉強してんなぁ、麗奈。俺は頭使うのはどうも苦手でよぉ」
「それで将来路頭に迷っても知らないからね」
「肝に銘じとく。とりあえずツマミ頼む」
「うん」
「あ、ヒナはもう寝たか?」
「起きてるよ。ほらそこ」
雛菊は客もまばらなカウンター席の端っこに陣取って何やら書き物をしている。鬼塚は絵でも描いてるのかと思ったが、よく見ると算数の勉強をしているようだった。
「ヒナってまだ幼稚園児だよな……?」
「今のうちに英才教育」
「やりすぎだろぉ……」
当の本人は周りの女性客に「や~ん、かわいい」だの「えらいねぇ、ヒナちゃん」だの持てはやされてまんざらでもない様子である。
「あ、ママー。お姉ちゃんたちにお菓子もらったー」
「良かったねぇ、ヒナ。ちゃんとお礼言った?」
「うん!」
「よーし、えらいえらい」
麗奈から頭を撫でられると雛菊はくすぐったそうに身をよじる。
「でももう歯磨いたから今日は食べちゃダメよ」
「えー、そんなぁ」
「そろそろおねんねしないとね。寝る子は育つんだから」
「はーい……」
ションボリしている姿も愛らしく、鬼塚も自然と頬がほころんだ。だが同時に桜良に申し訳なくもなった。どうしても子どもを奪っているような気になってしまうのだ。ふと、桜良の言葉が蘇る。
『ダイちゃんは長生きする人をお嫁さんに貰いんさいよ。そんで、元気な子を産んでもろうて、ヒナの友だちにしたって』