【前回記事を読む】ヤクザの男が抱く赤ん坊は、実の子ではなかった…その子を奪うように抱き取ると、男は「返せ!」と声を荒らげて……

Case:C 娘の選択

その日、鬼塚は肩で風を切りながら夜の繁華街を歩いていた。どことなく気だるげで、客引きの男や水商売の女たちとの挨拶も普段より適当だった。どれだけゆっくり歩いても目当てのスナックは近づいてくる。そこで働いている麗奈に大事な用があるのだ。

しかし意を決して入口のドアを開けようとした瞬間、二人の男が店内から叩き出されて鬼塚は目が点になった。

「だーかーらー! いくら積まれようともこの店は手放さんってなんべんも言ってるでしょ!」

随所に菊の花があしらわれた着物をまとう大和撫子が大見得を切っている。まるでヤクザ映画の姉御だ。

「このアホンダラ。ここが東都連合のシマだって分かってて地上げやってんの? あぁ?」

凄まれた男たちは尻尾を巻いて遁走する。その段になって麗奈はようやく鬼塚に気が付いたらしい。

「あ、ダイちゃんお疲れ様―」

「お前……なんかすげぇな」

「なにが? ワケ分かんないこと言ってないで早く入りなよ。お腹空いてるでしょ」

「あ、あぁ。それよかさっきの連中はなんだ?」

「あーアレ? 最近ちょこちょこ顔出すようになったイケ好かない連中なの。この辺が再開発エリアに含まれてるから、上手いこと言いくるめて土地や店を奪おうと画策してるっぽい」

「マジか。とうとうこの辺にも来やがったか」

「うん。これからはヤクザも頭を使わないとね」