「充分大ごとじゃねぇか。そもそも何歳なんだお前」

「十九」

「未成年かよ……。親父さんと揉めた原因は?」

「アタシ、事情があって今は働いてなくてさ、父さんから『いつまで穀潰しでいるつもりなんだ』ってキレられちゃって。でも本人だって働いてないんだよ? だからどの口が言うんだって言い返したの。そしたらこのザマ」

「ロクでもねぇ親父だな。っていうかお前、名前は?」

「人に名前を訊ねる時は自分から」

「チッ……おやっさんみたいなこと言いやがって……」

「おやっさん?」

「いや、こっちの話だ。俺は鬼塚。鬼塚大吾だ」

「じゃあダイちゃんって呼ぶね」

「……好きにしろ」

「あれ? 嫌だった?」

「嫌とは言ってねぇだろ」

「もしかしてほかの女の人にもダイちゃんって呼ばれてた?」

「……」

「あ、ビンゴ? 元カノ?」

遠慮という言葉を知らないのか、グイグイと迫る女に対し、鬼塚は面倒くさそうに「昔、世話んなった人にもダイちゃんって呼ばれてたんだ」と答えた。

「世話?」

「その話はいいだろうが。つーかお前こそなんて言うんだよ」

「アタシは麗奈。麗奈ね」

「おお辛えな?」

「次しょうもないダジャレ言ったらぶっ飛ばすわよ」

麗奈は気の強さが玉に瑕だがイイ女だった。ざっくばらんで裏表がない豪快な性格で鬼塚と馬が合い、竹虎からもすぐに気に入られた。特に雛菊のあやし方が抜群に上手かった。

ぐずったり、ひとたび泣きわめくと男衆ではどうしようもないのだが麗奈にかかれば朝飯前である。雛菊の母親代わりとなるのも、雛菊自身が彼女を本当の母親だと思い込むのも時間の問題だった。

ただ、大人サイドはそれが良いことなのか悪いことなのか判断に苦しんだ。いつか言おう。物心が付いたら、五歳になったら、卒園したら。そうやって先延ばしにすればするほど苦しくなることは分かっているのにどんどん先延ばしにしてしまった。

気が付けば二〇〇八年。雛菊は六歳になり、ある程度の物事なら分別がつく年頃まで成長した。そして鬼塚と麗奈は否が応でも結婚を意識しはじめた。

次回更新は10月10日(土)、11時の予定です。

 

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