【前回記事を読む】「お父さん、得意だった」…本場の水餃子を皮から教えてもらえることに。劉さんが「…作るの、大丈夫」と言葉を詰まらせた理由を、私は後で知り…
1 医学祭
「じゃあ、わたしはこれから部長と副部長に会うから、あずみは先に食堂で食べていていいよ」
「ええっ、今から?」
昼休みも半分は過ぎている。このあとまたすぐに、真琴はフットサル部の先輩に会いに行くらしい。どこまで行動派なのだろう。
「じゃ、またあとでね」
真琴はさっと向きを変えて、先輩たちがいつもたむろしている学生ホールに行ってみると言った。
真琴の後ろ姿を見送って、あずみはあの行動力は真似できない、とため息をつく。でも、そこが羨ましいと思った。
「中国で餃子といえば、水餃子ね」
劉さんが顔とは不釣り合いの、くまのマスコットキャラのかわいいエプロン姿で解説をしている。
ここは、広いキッチンのあるみきの家だ。
あれから、真琴の行動力にフットサル部もチア部も乗せられて、あっという間に医学祭の出し物が水餃子に決まった。
今日はその講習会、予行練習をしているのだ。
しかし、場所をどこにしようか、ということから揉めた。
「参加者は劉さんと篠原さんも入れて、総勢二十五名くらい。でも、そんな大人数が一度に入るキッチンはある?」
部長の本郷紗英が真琴に疑問をぶつけた。それが決まらないと何も始まらない。
「実行委員会にも提出しなくちゃならないの。場所が確保できなければ、水餃子の許可も下りないわ」
「大学の調理室はダメでしょうか?」
真琴が提案した。
医療栄養学部には、実習のための大きな調理室がある。真琴も、そこはなんとかなるだろうと思っていたのだ。
「う~ん、どうだろう。平日は授業で使っているし、放課後や休日に開放されているかだけど……」
紗英はどうだったかなと思う。なにせフットサル部は今回はじめて学祭で食べ物系をやるのだ。
「一応事務室に聞いてみるけど……。でも、だめだったときはどうする? 市民センターみたいなところで開放している調理場を借りる?」
紗英はそれにはお金がかかるよなぁと思いながら言った。
「前日の調理に外部の施設を借りるっていうのは仕方ないと思いますけど、単なる予行練習みたいなものですから……」
弱小クラブに予算の余裕はないことくらい、真琴も分かってはいる。
「じゃあさ、誰かの家で二回に分けて行うっていうのは?」
「二回に分けて?」
二回に分けたところで、十二人くらいだ。それでも人数が多い。実家であれ、一人暮らしであれ、そんなに大きいキッチンがあるだろうか?
「うちでもいいんですけど……うちもキッチンは広くないんです」
真琴の家は、キッチンも立派な設備を整えているが、それほど広くはなかった。父親の考えから、無駄に広い大豪邸を建てることは、権力を誇示するようで抵抗があったようだ。
広さは家族が暮らせる最低限でいい。キッチンも一般家庭よりは広いが、何十人も入るとなるとやはり少し窮屈だった。
「広い調理場ねぇ……」
紗英が唸った。
「あずみの家も一軒家だけど、キッチンはどうかなぁ?」
真琴があずみに聞いてきた。
「う~ん……うちもちょっと狭いかも」
あずみは部外者だが、特別にミーティングから参加することになった。助っ人として調理に参加するのだから、顔合わせの意味で、部員たちにも紹介された。
あずみと真琴が調理場について話しているそばで、みきが二人の会話を聞くともなく聞いていた。
「あのぉ、うち、使います?」
「え?」