「おい、お前ら、そこで何をしている!」
林の向こうから伊藤が2人の所に走ってきた。
「何って……」
言い淀む高井良の前に詩が割って入った。
「ああ、教養講座のスライド用の画像を撮ってたんです。ほら、『現場検証の基礎知識』みたいな。本当の事件現場の方が臨場感があって雰囲気出ると思って」
愛想笑いしながら詩が弁解した。
「ここは関係者以外立ち入り禁止だ。勝手な真似をするな」
「僕達も同じ刑事部だから関係者だ」
「雑学同好会はクイズでも作ってろ。ここは本物の現場だ。お前達が来ていい場所じゃない」
「何だと!」
その時、伊藤の背後からもう一人、背の高いサングラスをかけた気障な男が現れた。
「どうした、伊藤」
「ああ、辻さん、こいつらが勝手に現場を漁っていたんです」
辻は2人を睨みつけた。
「あんた、木曽の部下か」
辻は詩を見て言った。
「はい、光信詩です。いつもお世話になっております」
「ここで何をしている」
「ああ、教養講座のスライド作りなんかを……」
高井良は詩の袖を引っ張って囁いた。
「誰です?」
「知らないの? 泣く子も黙る殺人犯捜査第1係長、辻誠よ」
「えっ、あの人が」
「光信さん、木曽に言っておけ。余計な真似をしたらただでは済まないぞってな。行くぞ、伊藤」
「はい」
辻と伊藤が2人に背を向けてその場を去ろうとした時、背中越しに高井良が声をかけた。
「何しに来られたんですか?」
2人は立ち止まり振り返った。
「何だ、お前は?」
「僕は刑事教養第3係の高井良悠です。もう現場検証もすっかり終わったのにわざわざここに来られたのは、行方不明の弾丸を捜すためじゃないんですか? もう捜さなくていいんですか?」
「何だと?」
辻は高井良を睨みつけた。
「ちょっと、高井良君!」
詩が慌てふためいた。高井良はなおも続けた。
「今、この木に弾痕を見つけました。でも穴の中には弾丸はありませんでした。一体どこに行ったんでしょうか?」
「おい、高井良、失礼だぞ!」
伊藤が吠えて、高井良に飛びかかりそうになるのを辻が制した。
「君が伊藤の同級生か。君も将来一課を希望しているんだってな」
「はい」
「じゃあ言っておく。警察っていうのはな、組織だ。何をするにもチームワークが大事だ。1人では何もできない。上司や先輩達のアドバイスをよく聞いてこそ仕事もうまくいくし、みんなに認められるんだ。
木曽のような一匹狼では何もできない。だからあいつは今、閑職に追いやられて冷や飯を食ってるんだ。君も将来うちに来たいのなら木曽のような男に毒されるんじゃないぞ。
その木の弾痕のことは俺達も把握している。弾丸がどこに行ったのか今捜査しているところだ。
お前達が心配することじゃない」
そう言い残すと2人は林を抜けて去って行った。