シャワーを提案した。「先に温まってもらえますか。俺は外で待ってます」

幸江は少し意外そうな顔をした。「……一緒じゃないんですか」

「ご希望であれば一緒に入りますよ。どうされますか」

幸江はしばらく考えてから「……一緒にお願いします」と言った。声がかすれていた。

浴室に入った。幸江はゆっくりと服を脱ぎ始めたが、途中で手が止まった。シャツのボタンを外しかけて、指先が震えているのが見えた。

「……なんか、急に怖くなってきて」

渉はお湯の温度を確認しながら言った。「怖いのは当然ですよ。無理しなくていいです」

「でも、怖いのと、気持ちよくなりたいっていうのが、両方ある感じで」

「それで来たんでしょう」

幸江が小さく笑った。「そうですね」と言って、ゆっくりとシャツを脱いだ。一枚ずつ布が落ちるたびに、長いあいだ誰の目にも触れさせてこなかった背中が、淡い灯りの下にあらわれた。胸元を腕で隠そうとしたその手を、渉はそっと取って、ほどいた。

「隠さなくて、いいんですよ」

幸江は息を止めた。「……そんなこと、何年も言われてないです」

渉は答える代わりに、幸江の背後にまわった。シャワーの湯をまず自分の手のひらで受け、温度を確かめてから、幸江のうなじへとゆっくり流した。湯が背筋を伝って落ちていく。その線を指の腹でなぞるように、渉は手をすべらせた。

シャワーを浴びている間、渉は後ろから幸江の肩に触れた。固まっていた筋肉が、お湯の熱と渉の手のひらの温度で、少しずつほぐれていった。

「首、随分と凝ってますね」

「……仕事でずっとパソコンを見てるので」

渉は親指を首の付け根に当て、ゆっくりと圧をかけた。幸江が小さく声を漏らした。

「んっ……そこ、すごい」

「力加減、これくらいで大丈夫ですか」

「……もっと強くしてもらっても」

渉は少し力を入れた。幸江の体がわずかに前のめりになった。倒れそうになるのを支えるように、片手を腰に添える。濡れた背中が、渉の胸にたしかに触れた。幸江の体がぴくっと跳ねた。

次回更新は9月15日(火)、22時の予定です。

 

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