【前回の記事を読む】18で家を出て、“未経験可・月30万”の面接に行くと「何の店か分かってるのか」と…だいたい分かっていたが「やります」と即答した。
2.
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研修で最初に教わったのは、技術よりも心構えだった。
「うちに来る女性は、体じゃなくて心が飢えてる人がほとんどだ。それを忘れるな」
オーナーにそう言われた。
研修の1週間、渉はとにかく不器用だった。オイルの温度をうまく調整できず、熱すぎたり冷たすぎたりした。手順を覚えても、いざ体が緊張すると、順番が飛んだ。先輩は渉の手つきを見るたびに、舌打ちをした。
「お前、ほんとに鈍いな。こんなんで客の前に出せるか」
渉はメモを取って、夜、誰もいない研修室で、何度も練習した。タオルの畳み方。手のひらの当て方。布団を相手に、明け方まで繰り返した。それでも、本番はうまくいかなかった。
最初の客は、40代の会社員の女性だった。
渉は緊張で、声が裏返った。「いらっしゃいませ」が、ひっくり返って、変な音になった。客が、ふっと鼻で笑った。
シャワーの温度を聞くのを忘れた。オイルを温めすぎて、客が「熱い」と小さく声を上げた。渉は慌てて謝った。手が震えていた。その震えが、客にも伝わったのだろう。
施術が終わると、客は身支度をしながら、ため息まじりに言った。
「あなた、向いてないんじゃない。もう絶対、指名はしないわ」
渉は「申し訳ありませんでした」と、何度も頭を下げた。客が帰ったあと、店長から呼ばれた。
「中村、クレームだ。減点。今日のぶんの歩合は、なしな」