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働き始めて4年が経っても、渉は店になじめなかった。
セラピストたちは、控室でよく雑談をした。競馬の話、女の話、店の愚痴。渉がその輪に入っていこうとすると、会話が、すっと途切れた。渉はそれ以上、何も言えなくなって、隅のロッカーの前で、本を読んでいるふりをした。
不器用だった。気の利いた相づちも、軽い冗談も、渉にはできなかった。子供の頃から、笑ってやり過ごすことしか覚えてこなかった。だから、笑う以外の人との関わり方を、渉は知らなかった。
その頃、渉は思いきって社員寮を出た。
指名が安定し、月収が30万に届くようになっていた。同居の先輩は相変わらず渉を見もせず、私物は少しずつ消えていった。あの部屋に、もういたくなかった。
渉が借りたのは、店から電車で20分ほどの、古いマンションの1室だった。6畳1K。風呂は狭く、壁は薄い。それでも、玄関の鍵は、渉1人のものだった。誰とも分け合わなくていい鍵を持つのは、生まれて初めてだった。
引っ越した夜、渉は何もない部屋の真ん中に座って、天井を見ていた。ここは、自分の部屋だ。誰も勝手に入ってこない。誰も、追い出さない。そう思うと、涙が出た。たった6畳の部屋。それでも、やっと手に入れた「自分の居場所」だった。
それからしばらくして、渉はある女性客と出会った。
次回更新は9月13日(日)、22時の予定です。
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