【前回の記事を読む】「夫とは、もう何年もなくて」という女性。化粧は控えめだが、爪先まできちんと綺麗で…湯船でそっと抱きしめると、体を預けてくれて…
2.
その数日後が、渉の23歳の誕生日だった。
その日、控室では、別のセラピストの誕生日が祝われていた。誰かがケーキを買ってきて、ろうそくが灯されて、みんなで囲んでいた。渉も輪の端に立って、小さく拍手をした。
「中村、お前も食うか」と1人が言いかけて、「あ、いい、足りないわ」と、すぐに引っ込めた。渉は「大丈夫です」と笑った。
誰も、その日が渉の誕生日でもあることを、知らなかった。渉も、言わなかった。言えば、空気が気まずくなるだけだとわかっていたから。
仕事を終えて、帰り道のコンビニで、ショートケーキを1つだけ買った。半額シールがついていた。マンションに帰って、プラスチックのスプーンで、その小さなケーキを食べた。
(誕生日おめでとう、俺。よく、23まで生きたな)
そう思った瞬間、涙が出た。じわじわと、止まらなかった。スマートフォンを開いた。「ありがとう」を、誰かに言いたかった。けれど、登録されているのは、店の事務的な番号と、絵里子の番号と、祖父母の施設だけ。連絡できる相手は、1人もいなかった。
渉はゆっくりとスマートフォンを伏せた。
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