妙にかしこまった様子でおそるおそる桜良のお腹に触れると、大袈裟かもしれないが確かに布一枚を隔てた向こう側に生命の息吹を感じた。

「やっぱり蹴ったりとかするんすか?」

「うん。はよぅこの中から出たいんかなって感じでポコってね。将来あの人に似そうで今から心配じゃわ」

「ってことは男の子っすか?」

「それがね、女の子なんよ。ウチとしてはお淑やかなお嬢様みたいな子になってほしいんじゃけど、この分じゃと男勝りなスケバンみたいになりそうやねぇ」

その割に桜良は微塵も不安な様子を見せず、むしろ楽しんでいるようでもある。お転婆でもいいから元気に育ってほしいと思うのは母親の共通認識なのだろう。

「俺の母さんにもそんな時期があったのかな」

「そういえばダイちゃん。親御さんは? こんな時間まで帰ってこんかったら心配するじゃろ」

「あー……俺、親いないんす。うんと幼い頃に捨てられちまいまして、あとから借金苦で首が回らなくなって自殺したと聞きました」

まずいことを聞いたとばかりに桜良が息を呑んだのが空気で分かった。

恩人にこんな思いをさせるなんて俺は最低だなと胸中で呟いた鬼塚は嫌な空気を振り払うかのように立ち上がり、礼だけ述べてこの場から去ろうとした。

だが桜良は去りゆく男の手首を掴んでそれを制する。

「桜良さん?」

「人を恨んでも……何も始まらんよ」

「恨んでなんかないっすよ。むしろ感謝してるくらいです」

「?」

「たまにガキを巻き込んで心中した家族のニュースとか流れるじゃないっすか。ああいうのを見るたびに、俺はちゃんと捨ててもらったから今も生きてるんだなって思うんです」

「そっか。強いんやな、ダイちゃんは」

そう言って桜良は鬼塚の汚れた頭を撫でた。

次回更新は9月19日(土)、11時の予定です。

 

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