「頭から血ぃ流したあの人が来た時はビックリしたわホンマ。
完全に診察時間外の真夜中で当直の先生も急患の対応しとったけん、他に見られる人がおらんとってね。
なによりあの人が『止血だけしてくれ』言うもんじゃけぇ弱ったわ。ほんでね、シャツにもだいぶ血ぃ付いとっけぇ、脱がしたらまぁ見目麗しゅうな錦鯉が背中に泳いどったんよ。
エライお客さん相手にしてしもうたわぁって焦った焦った」
桜良は堰を切ったように話し、言葉を挟む暇すら与えない。だが面白く興味をそそる内容だったので鬼塚も自然と前のめりになり、相槌を打つことすら忘れていた。
「そのケガどうしたんですかって訊いたら『階段から落ちた』って白々しい嘘吐くんよ。よう見たら拳の皮がちょっと痛んどったけぇ、あぁ、こら誰かしらと一戦やりおったなってすーぐ分かったわ」
その後、桜良は「いらんこと話し過ぎたね。あの人が待っとるけぇ、もう行きんさい」と促した。
鬼塚としてはそこからどうやって竹虎と親交を深めたのか知りたかったのだが、隙があれば幸せそうに微笑んで大きなお腹を撫でる桜良を見れば改めて聞く必要もなかった。
「触ってみる?」
鬼塚の視線に気付いたのか、桜良が訊ねた。
「えっと……いいんすか?」
「もちろん」
「じ、じゃあ……失礼します」