【前回記事を読む】最近よくつまずく、物忘れが多い、外出が億劫…それ、「フレイル」かも? 要介護や寝たきりになる前に早期の医療介入を…
第1章 フレイルとは?
1.3 フレイルが注目される社会的背景
近年、「フレイル」という概念は医療・介護・行政の現場にとどまらず、一般社会でも注目を集めています。その背景には、日本をはじめとする先進国が直面している超高齢社会の現実があります。
日本ではすでに65歳以上の人口が全体の約3割に達し、「人生100年時代」が現実味を帯びてきています。こうした中で、単に寿命を延ばすだけでなく、「健康寿命」──すなわち日常生活を自立して送れる期間──をいかに延ばすかが、社会全体の重要な課題となっています。
かつて高齢者に対する医療・介護は、疾患の治療や身体機能の維持に主眼が置かれていました。しかし、病気の有無だけでは高齢者の生活の質(QOL:Quality of Life)を十分に評価できないことが明らかになりつつあります。
特に、筋力や認知機能のわずかな低下、社会とのつながりの希薄化など、いわゆる“健康と病気のグレーゾーン”にある状態をどう捉え、どう支援するかが問われています。
そこで注目されているのが、「フレイル」という包括的な概念なのです。
フレイルが注目されるもう一つの理由は、高齢者の健康状態が医療費や介護費に及ぼす経済的影響です。
介護保険制度の持続可能性が課題となるなかで、フレイルの早期発見と予防は、要介護者の増加を抑える鍵として期待されています。つまり、フレイル対策は個人の生活の質を守るだけでなく、社会保障を健全に保つための戦略としても極めて重要なのです。
さらに、現代社会の変化もフレイルへの関心を高めています。核家族化や単身高齢者の増加、地域コミュニティの希薄化といった社会構造の変化により、高齢者が「孤立」するリスクは高まっています。
身体的には元気でも、話し相手がいない、外出の機会がない、社会的な役割を失っている──このような状態は「社会的フレイル」と呼ばれ、身体機能や精神状態の低下と深く関係しています。
また、COVID-19のパンデミックもフレイルへの注目を加速させました。感染拡大防止のために高齢者の外出が制限された結果、高齢者の身体活動の低下やうつ傾向の悪化、社会的孤立が顕著になり、「コロナ・フレイル」という言葉まで生まれました。この経験は、日常的なつながりと活動の大切さを改めて私たちに教えてくれました。
このように、現代におけるフレイルは単なる医療的課題ではなく、社会的・文化的・経済的側面を含む「複合的な現象」です。だからこそ、医療従事者だけでなく、地域社会や行政、そして私たち一人ひとりが関わるべき課題といえます。
フレイルに早く気づき、予防と支援のネットワークを築いていくことは、個人の健康と幸福を支えると同時に、持続可能な社会づくりにもつながっていくのです。