麻利衣は青い顔をして呆けたようにふらふらしながら崖の先端まで踏み出して、下方の海面を見下ろした。
相変わらずありとあらゆる物体が暗い穴に吸い込まれ続けていた。
麻利衣は賽子を振り返って言った。
「私は……どうすれば……」
「おまえが抜け出してできたあの穴を塞ぐためには、もう1度おまえがあの穴に飛び込むしかない。この宇宙を救うためにはおまえがもう1度崖から飛び降り、古葉月渚に戻るしかない」
「そんなの絶対に嫌です!」
麻利衣が叫んだ。
「死ぬのが怖くて言ってるんじゃありません。それなら1度死のうとしました。
私は古葉月渚なんかに絶対に戻りたくないんです。私は那花麻利衣です。
たった一瞬であっても、あんな惨めな存在にはもう戻りたくありません……」
麻利衣はその場にしゃがみ込み嗚咽した。賽子は溜息をついて穏やかな瞳で彼女を見つめた。
「それならおまえの好きにしろ。これでさよならだな」
麻利衣が泣き止んで立ち上がって振り返るとそこには賽子はもういなかった。
「賽子さん……」