病院で患者が死ぬと、どうなるか。
家族三人で涙にくれていると、当直のナースがやってきて、最初は遠慮がちに、そのうちに手慣れた様子で、父の身体にとり付けてあったチューブやらモニター器具をさっととり外した。
そして、このあとの手順を説明し始めた。
着せたい服を選んでください。あとで身体をきれいにしてその服を着せますが、できれば浴衣か着物がよろしいでしょう。
あとはご遺体を自宅へ運んでください。
そうなのだ。病院は生きてる人間の世話をするところで、死んでしまった人間の世話は、家族でするか葬儀屋さんに頼まなければならないのだ。
公衆電話ボックスへ行き、職業別電話帳を開く。聞き覚えのある葬儀屋へ電話をする。
深夜でも、ちゃんと応対をしてくれる。
人間は、あの世へ旅立つのに昼夜を問わない。葬儀屋さんというのも、コンビニと同じ二十四時間営業なのだ、と変に納得する。
自宅に戻り、奥座敷に父を寝かせるための布団を用意した。
病院から自宅へ遺体を運ぶことを、葬儀屋さんは「下げ」と称していた。
まさに病院から下げられてきた父を、奥座敷に寝かせる。母と夫と私が、そろってあたふたしているので、犬の吟も座敷までやってきて、何してるんだ、と言わんばかりの顔をする。
「お父さん帰ってきたよ」
寝かされている父の顔に鼻を近づけると、吟はその顔をぺろりと舐めた。
猫もやってきて、ふかふかの布団の上にそうっと足をかけ、誰も何も言わないでいると、布団の上で丸くなった。生命の宿らないものに対して動物は非情な態度をとるものと、私は思い込んでいた。動物といえども、長い間一緒に暮らした人間を温かく見送る心が備わっている。