【前回の記事を読む】ある冬から、愛犬が取るようになった行動──赤いボールを雪の中に埋めておき、5分ほどしたら戻ってくる。まるで人間のような様子で…

第三走者 吟(ラブラドール・レトリバー) 平成十四年~平成三十年

命を救う

大げさかもしれないが、吟(ギン)は人間に尽くして、命も救った。夫は仕事のストレスから、血圧が高くなった。

世界中がリーマン・ショックなるアメリカの金融危機のあおりを受けて、日本でも景気が不安定になっていた。

仕事がうまくいかないストレスから逃れようと飲酒をする。それがさらにストレスを呼んで、飲酒量が増える。眠れない夜が増えるにつれ、朝も起きられない。

しばらく散歩も中断していた。

私とは別の会社経営をしていた夫は、中小企業なだけに何もかもが社長の肩にかかっている。

売上が思うように伸びない。銀行がいろいろ言ってくる。社員が不満を言う。かわいがっていた部下に辞められる。仕事が夜遅くまで続く。食事が不規則になる。お付き合いで飲酒量が増える。

悪循環やらさまざまなことが重なって、血圧も下のほうが一三○を超えた。 医者に、「いつ倒れてもおかしくない」と言われた。

降圧剤を飲めばいったんは血圧も下がるだろうが、ずっと飲み続けなくてはならない。薬漬けになれば、肝臓などのほかの臓器に負担がかかる。酒量が増えて、ただでさえ肝臓値が悪いというのに。

有酸素運動をするのがよいと言われて、しばらく中断していた朝の散歩を再開することにした。

人間一人で一時間以上歩けと言われても、歩けるものではない。それも何日も続けるには根気もいる。

その点、犬というお伴がいれば励みにもなり気分も軽い。吟はいくらでも付き合ってくれて、いくらでも歩いた。

「たまには一緒に歩こうよ」

そう誘われて、週に二、三度は私も一緒に歩くことにした。