歩くといろいろな景色が見えてくる。
春には燕が飛来し、カルガモが水辺で泳いでいる。秋には艶やかな茶色の栗の実が落ちている。冬は晴れ上がった空と山々に心が洗われた。淡い紅(くれない)に染まる朝焼けがきれいなときもあれば、木々の芽吹きに春を感じ、吹き過ぎる風に胸がすっとすることもある。うろこ雲が空いっぱいに広がって、そろそろ秋が近いのか、と季節が過ぎていく早さを実感する。
一年ほどして、夫の血圧の値がびっくりするほど正常になった。
不思議なもので、体調が整ってくると会社経営も順調になってきた。たまたま世の中の動きがそうだったのだろうが、負のスパイラルから抜け出ることができたのも、吟のおかげだったと思う。
父を看取る
父は小脳梗塞で倒れたあと、多少の身体的後遺症を患いながらも何とか普通に暮らしていたが、急に体調を崩して入院した。
退院後は、二階の寝室ではなく一階に電動ベッドを用意した。同じ部屋のソファで、私が寝起きをして、夜の間の世話をする。昼間私が仕事をする間は、母が食事やトイレの世話をする。
そんな生活が一年以上続いていたが、あるとき父が喉を詰まらせて、救急車で病院へ運ばれた。
誤嚥性肺炎。
血液検査などの結果、数値は薬で改善する見込みがないほど悪くなっていた。それでも意識はしっかりしていた。
ちょうどその頃、会社の経営状況を好転させるために、遊休資産を売却することになっていた。
まだ私と父の二人が代表という立場だったために、会社名義の資産の売却には二人の意志確認が必要だという。
司法書士に病室まできてもらい、父に売却手続きの本人確認をしてもらった。ある意味で、これが最後の仕事になった。
次回更新は8月26日(水)、19時の予定です。
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