【前回記事を読む】点滴とほぼ同じ成分と言われる「甘酒」。夏の季語に分類された理由は江戸時代にあった——夏になると死亡率が高まる為、夏バテ対策に…
第三章 夢を醸す
麹室
アルプスの峰は早くも白い衣をまとっている。いよいよ酒造りの季節が巡ってきた。
酒造りの基本は「一麹(こうじ)、二酛(もと)、三造り」というように、麹造りがまず最初の段階で重要なポイントとなる。
外気温が零下でも、麹室(こうじむろ)の中は室温三十度以上を保ち、湿度調節しながら純良な麹を造る。
創業以来、昔ながらの麹室を長年使ってきた。外壁には赤レンガをイギリス積みし、中は板壁。床と天井、そして四方の板壁とレンガの半間ほどの空間には、籾殻(もみがら)がぎっしり詰まっていた。断熱材という便利なものがなかった時代の産物だ。
さすがに板壁の隙間から籾殻が落ちるようになり、老朽化が激しいので思い切って夏に改修工事をすることにした。
かき出せど、かき出せど、なかなか減らない籾殻は、とうとう畑に小山ができるほどの量が出てきた。
軽井沢の明治期創業の老舗ホテルの改修工事でも、やはり籾殻が断熱材代わりに使われていた、と工事人が証言をする。リサイクルが叫ばれる昨今だが、稲作が行われてきた日本では、刈り取った藁を始め、籾殻から糠まで余すところなく利用されてきた。
仕込まれた原料米は、清酒を搾ったあとは酒粕としておいしい漬物を生み出す。まさに捨てるところがない。かき出された籾殻は、今度はブルーベリー畑のマルチに使おうか。
完成した麹室の前で醸造祈願神事を執り行い、酒造りが開始される。
(二〇〇七・十一)