【前回記事を読む】【日本酒】飲む人の好みで冷温でも常温でも、好きなように飲むのが一番。けれどお酒には「顔つき」があることを知っていますか?
第三章 夢を醸す
樽と桶
昔、酒の仕込みには大きな木桶を使用した。「樽」と「桶」はどこが違うのか。どちらも容量は様々、大きいものから小さいものまであるが、きちんと密閉できる容器として使うのが樽。
桶の場合は、蓋は上に置くか被せるだけで、樽のように遠距離を運ぶのには向いていない。従来鏡開きをしたあとの樽は、漬物を漬ける桶などに再利用されてきた。
酒の仕込みに使われた木桶ももう使われなくなって久しい。屋外にさらしておいたが、さすがに朽ち果ててきたので処分することにした。が、厚みが十センチもある真ん丸い底板は頑丈で、板と板は昔流に竹釘でしっかり繋いである。とても捨てがたかったので、屋外テーブルに変身させた。
日差しの温もりを吸い込んで、触るとふっくら温かい。
(二〇〇五・四)
一夜酒(ひとよざけ)
内陸性の気候は、冬と夏の較差、一日の寒暖の差が大きい。気温三十度を超える猛暑を過ごしていると、真冬には氷点下十度になったことなど忘れている。夏と冬で四十度以上の温度差を体感しているわりには、信州人は長寿である。
信州は冬の寒さを利用して造る「寒造り」で清酒を仕込むが、米洗いから始まって麹(こうじ)を造り、酒母、本仕込みと、一仕込みの清酒ができ上がるまでには一か月半から二か月はかかる。
それが甘酒の場合、一夜でできるので別名「一夜酒」。酒は酒でもアルコール分はほとんどゼロだ。
本格的な造りでは、通常の酒米より柔らかく蒸した米に米麹を加え、一晩一定の温度を保っておくと、麹の酵素の働きでデンプンが糖化する。同時に乳酸発酵も進むので、若干の酸味も加わる。
甘酒といえば寒い冬や春先に、温めて飲むのが普通に思われるが、江戸時代などは夏冷やして飲むのが習慣であった。
ビタミン類や必須アミノ酸、ブドウ糖が多く含まれているので、手軽に栄養補給できる。夏の暑い時期に死亡率の高かった江戸時代は、夏バテ防止に最適と、辻に甘酒売りが多く出たという。
かくして俳句の世界では、夏の季語となった甘酒。成分が点滴とほぼ同じとなれば、弱った身体にも効き目がありそうだ。
お盆が過ぎてもまだまだ残暑は厳しい。甘酒で体力回復を図りつつ、残りの夏を駆け抜けようか。
「御仏に昼供へけりひと夜酒」(蕪村)
(二〇〇六・八)