燕の空
燕帰る
燕(つばめ)が帰ってきた。
燕が帰るというと、季語では秋になるという。つまりは南へ帰っていく。燕の故郷は、東南アジアなのである。
昨年立派な巣を造って雛を育てた燕だが、無知な人間が起こした騒動のせいで大変な迷惑をこうむりながらも、懲りずに二羽で帰ってきてくれた。
嫁に出した娘を迎える実家の心境だ。朝は四時頃からルリルリと鳴き始め、抱卵しているのか日中はどちらかが巣の中でうずくまり、どちらかが捕食のために空を舞う。
人の出入りのある軒下を選んだのは、天敵から雛を守れると判断したのだろう。かわいい雛が顔を覗かせるのを心待ちに、今年はただそっと様子をうかがう毎日が続く。
地球の四分の三近くの面積を占める海。その茫洋とした海にも潮の流れがある。多くの魚が黒潮という、まさに黒ずんだ色の潮流に乗ってやってくる。
ほんの沖合でも、潮目というものがあって、小さな船は流れに乗って進むのと、逆らって進むのでは燃料消費がずいぶん違う。
燕が大空を渡ってくるときも、やはり風の流れに乗ってくるのだろうか。時には風の帯に身をゆだね、時には上昇気流に乗って空を旅する。
たどりついた盆地の一角で、翼を休めて雛を育てる。蒼穹を飛翔する燕には、雀とは違う凛としたものを感じる。まさに大空を旅するものの風格だろう。
(二〇〇七・五)