【前回の記事を読む】母を気遣い、老化予防に良いと聞いて選んだ角煮を届けた…だが翌日の電話で、母は「硬くて捨てた」と平然と話し、返す言葉が見つからず……
第2章 壊れていく日常
生活能力低下と廃棄行動
角煮廃棄事件以降、認知症が徐々にカタチとなって表れ始めた。
まずは家がホコリだらけになってきた。母は汚れた娘のルーズソックスをそのまま洗濯機に入れさせないほどのきれい好きだった。
私が妻と結婚してから何度も家に行っていたが、ホコリの一つも見たことがなかった。ホコリを見つけたくてテレビ台を密かにずらし、裏側を覗いたが見つけられなかったほどだ。
それが今や、部屋にはホコリが溜まり始め、床の隅には大きくかたまったホコリが目に付くようになった。
トイレは多少きれいにしているようだったが、トイレの収納棚を開けるとトイレットペーパーの芯が転がり出てきた。そして着ている服も毎回同じになっていた。
年末には再び廃棄行動を目の当たりにした。
妻は年末年始という節目に母と食べるおせちをインターネットで予約注文していた。そしてデパ地下のうな重弁当も大晦日に受け取れるよう予約していた。
大晦日当日は、母におせちの宅配受け取りを頼み、その間にとんでもなく混んだ大晦日のデパ地下まで、うな重を受け取りに行った。
そして温かいうな重を母に食べてもらいたい一心ですっ飛んで帰ってきた。
しかし、すぐに大晦日の豪華な夕食をテーブルに広げ、まだほんのり湯気が上がるうな重を食べ始めた母の第一声で、大晦日の食卓は凍りついた。
「これ硬い……」
たくさんの家族が笑顔でデパートを歩き回る中、その隙間を縫って持ち帰ってきた温かいうな重。
本来なら家族水入らずで、特番を見ながらいつもとは違う特別で大切な時間を過ごすはずの大晦日だが、ただただむなしさの募る時間を過ごすことになった。ほぼ無言で食べ終わり、うな重の容器を捨てようとごみ箱の蓋をあけたその瞬間、とんでもない光景が目に飛び込んできた。
三段おせちが無残にも崩れ、中身が飛び出し、他のごみにまみれてしまっていた。
正月の縁起物が見るに堪えない姿と化しており、声が出ず、思わずごみ箱の蓋を閉じた。
居てもたってもいられなくなった妻は家の外に飛び出し、冬の寒空を見上げながら、涙を流していた。近隣の家のリビングの窓から漏れ出る光がやけに暖かく見えた。