【前回の記事を読む】「施設が汚いから、もう行かない」と話していた母…しかし後日確認すると、実際には行っていなかった…その後も母の言い分と事実は食い違い…
第1章 違和感
精神不安定か、認知症か
不安に駆られた私たちは、以前父の依頼で見つけた介護施設に電話した。
そこのホーム長に、母はまだ入居する気はないが、面談して助言が欲しい旨を伝えた。ホーム長は快諾してくれて、翌週の休日に面談に行った。
面談は、ホーム長が簡単な質問をし、母がそれに答える形で小一時間行った。
その質問の中でも、母はまだ一人で生活できると答えていた。
面談は、話がややかみ合わなかったり、その場で繕ったような返答が見られた。つまり一貫性のある話がたまにできない時があったのだ。
しかし結果は、認知症と断定するのは尚早で、認知症の初期かもしれないし、父を亡くしたことによる精神的ショックからくる躁鬱状態によるものかもしれないとのことだった。
少し心配であるが、一人で生活したいという母自身の希望もあるし、今すぐ介護施設に入らなくてもいい状態とのことだ。
不安が拭いきれたとは言えないが、私たちはホッとした。
それから少し落ち着いた時期が続いたため、母と私たちの三人で少しいいお寿司屋さんに行くことにした。母も含め着飾っての食事は父の他界後初めてだ。
母は三人並びのカウンターで、美味しい美味しいとすごく喜んでいた。帰りには板前さん一人一人に、とても美味しかった!と何度もお礼をするほどだった。
こんなに喜んでいる母を見たのは久々だったので私たちはとても嬉しい気持ちになった。
母が認知症かもしれない不安はあるものの、これまでの日々を継続していけば案外大丈夫なのかもしれないと私は思った。
ただ、「夫がいればな」と美味しいお寿司を前に、亡き夫を偲ぶ様子が母に一切なかったことは一抹の不安として残った。
もしかしたら認知症により夫のことを忘れてしまっているのかもしれないと思った。
後部座席で美味しかったね、また行こうねと言い合う妻と母の顔を運転席のバックミラーから覗き見しながら、この懸念を心の奥底にそっとしまい込んだ。