第2章 壊れていく日常
生活能力低下と廃棄行動
父が他界し、母が一人暮らしを選択してから一年が経ち、年の瀬が近づいてきた。私たちはいつも通りに大量の食材や惣菜を抱え、母の家を訪れる。
タンパク質は老化予防に良いという情報を目にしたので、惣菜屋で柔らかい角煮を多めに買っていき、母に渡す。
「あぁ、ありがとう」
少し素っ気なく感じる返事だった。そしてスーパーの袋の中をじっと見ながら立ち尽くしている。見かねた妻が母からスーパーの袋を受け取り食材を台所に並べて、冷蔵庫に入れるべきものを母に渡し、冷蔵庫に入れてと頼む。
母はそれを受け取りながら、
「え?」
と言ったきり立ったままだ。妻はすぐに母の手から食材を取って冷蔵庫にしまい始めた。
おそらく妻は、その一瞬で母が冷蔵庫に物を入れられないほど判断能力が低下していると感じ取ったのだろう。
しかし、立ったまま何もできない母の現実を、何かの間違いだと信じたい気持ちで覆い隠すよう、素早く食材を冷蔵庫にしまい込み、台所から飛び出るようにリビングに移動したのだった。
いつもおしゃべりな妻は帰りの車の中で黙って窓の外を見ていた。