廃棄されたものは食べ物だけではない。

新型コロナ流行が収束に向かい、普通の生活に皆が戻り始めた頃、私たちは知人の結婚式に招待された。

妻は、新型コロナによる閉塞感から解放され、久々に着飾って晴れやかな気持ちになれることを大変喜んでいた。

当日の美容室の予約などを済ませた後、母の家に保管していた結婚式用のドレスを取りにいった。

もちろん母にはいつものように食材を買い込んでいった。捨てられるかもしれないと思いながらも、可能な限り母に食べてほしいという気持ちで。

母はそっけない感じで出迎え、妻は食材を母に見せながら冷蔵庫に入れた後、目的のドレスを取りに二階の自分の部屋に駆け上がっていった。

その直後、二階から悲鳴に似た声が聞こえた。

「ドレスがない……」

妻の部屋はもちろん、亡き父の部屋のクローゼットなど家中すべてを探したが見つからなかった。これまで多くを我慢してきた妻も遂に限界を迎えた。

「お母さん、なんで私のドレスを捨てちゃったの!」

「え? 私そんなことしてないわよ!」

母は慌てて否定するが、今回ばかりは妻も止まらなかった。

「去年の年末まではここにあったのに、ないじゃん! お母さんが勝手に捨てた以外ありえないじゃん!」

「そんな大事なもの……あなたに確認せずに捨てるはずないでしょ!」

「だってお母さん何でも捨てちゃうじゃん! 私たちが買ってきたごはんだって、年末にはおせちも捨てちゃったし!」

「私が捨てるはずないじゃない! ありえない!」

「もういい!!」

妻は私に一人で外に出て気分を変えてくると言って、玄関を飛び出していった。

母も慌てて娘を追うように玄関先まで出ていく。私は母の後をついていく。

母は玄関前の道路で既に小さく見える遠くの娘を見やり、おでこに手を当てながら、「私がそんなことするはずないじゃない……」と吐露していた。

私は家に戻るよう母を催促し、リビングで妻の帰りを待った。

その間、自分が捨てるはずがない、娘のものを自分のものと見間違えて捨てるなんてこともしない、そもそもドレスなんてなかった。

母は何度もそのことを繰り返し言った。

私を連れて娘の部屋に行き、ここには元から何もなかったと主張をした。

そうこうしていると妻が戻ってきて、ドレスのことはもういいと母に告げ、すぐさま母の家を後にした。

この日を境に母は私たちを見送るために外に出てくることはなくなった。

 

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