【前回の記事を読む】取り返しのつかないことになった――「ごめん、ごめん……っ」それでも少女に伸びた手は……

沈む陽と沈む思考

夜の繁華街は、まばゆいネオンとざわめきに包まれていた。人々の笑い声、車のクラクション、遠くから聞こえる路上ミュージシャンのギターの音——すべてが自分には遠い世界の出来事のように感じられた。胸の奥に沈むのは、焦燥、後悔、そして言いようのない虚無感。

「もう終わりだな……」

口にしてみても、なんの感慨も湧かない。ただ、事実として終わりなのだ。

「自首しよう」

そう呟いた時、道路の脇のちょっとしたスペースで何やら一人でしゃべっているヤツがいる。普段なら気にもとめないが、ふと足を止めた。

「おおー、ありがとうございます!」

関西のイントネーションだ。まわりには吉田以外おらず、皆チラ見するだけで素通りしていく。

その男の胸元には変な張り紙がつけてある。

“このネタで笑えたら、あなたは疲れている”

(どういう意味だ?)と思っていると男が話し始めた。

「この場所は僕の思い出の場所なんですよ。原点回帰というか、なにやってもうまくいかなくて……。良いことがあったと思ったら、その矢先にものすごい悪いことがあったり、逆に悪いことが起きたら小っちゃい良いことがあったり」

(今までの自分みたいだな)吉田はそう思いながら男を眺めていた。

「何事も前向きに考えようとはしてるんですけどねぇ。なかなか……そんな時、ここでネタをやらせてもらってるんですよ。まぁここでやるの二回目なんですけど」

言い放ったあと、男は吉田の様子をそれとなくうかがってきた。

「では川柳ネタやります。聞いてください」

「小っちゃい良いことのあとに、おっきい悪いことが起きたなら、なんでやねん!」なんの反応もなさそうな吉田に呆れたのか、

「あのぅ、ここはお客さんがつっこんでくれませんか? 川柳ちゃうやろ!とか」

吉田はフンと鼻を鳴らし、その場を立ち去った。立ち去っていく背中越しに「またお願いします!」と言っているのが聞こえた。

吉田が再びなんの目的もなく歩いていると、ふと視線の先に落ち着いた佇まいのバーが見えた。

派手な看板もなく、品のある店構え。最後に飲む酒なら、ここがいい。そんな思いに突き動かされ、ゆっくりとドアを押した。

中に入ると、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。ジャズが静かに流れ、カウンターの奥にはウイスキーのボトルと磨き上げられたグラスが整然と並んでいる。

照明は暗く、席に座る客の表情がぼんやりと影に溶けている。

「いらっしゃいませ」

カウンターの向こうで、落ち着いた声のマスターが迎えた。吉田は何も言わずに、奥の席に腰を下ろす。コートを脱ぐ気にもなれず、ただ重い体をカウンターに預けた。

「何になさいますか?」

「……強い酒を」

吉田がそれだけ言うと、マスターは少し考えてから無言でグラスを取り出し、琥珀色の液体を静かに注いだ。吉田はグラスを持ち上げ、一気に喉へと流し込んだ。