【前回の記事を読む】母が急死し、葬儀に現れたのは、父と不倫していた女だった。「来ないで!」喉が裂けるくらいの声を出して、その女を追い返そうと…
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父が連れてきた女は、絵里子といった。
渉は最初、てっきり美代子が来るのだと思っていた。お母さんをあんなふうにしたのは父と美代子だ。だから父が再婚するなら、その美代子が来るのだと。でも違った。絵里子は、渉の知らない女だった。
(じゃあ、美代子はどこに行ったんだろう)
お母さんはいったい何のために死んだんだ、と思った。
絵里子は40代前半で、化粧が濃く、服装はいつも派手だった。初めて会った日、絵里子は渉に向かって「よろしくね」と言いながら、渉の頭の先からつま先までを舐めるように見た。笑っているのに、笑っていない目だった。
引っ越しは春だった。渉が小学6年生になる年だ。
引っ越しの前日、絵里子が玄関先に段ボールを並べていた。
「これ、捨てるから」
中を覗くと、母のものが入っていた。母が育てたベランダのプランター。母が縫ったエプロン。母のお気に入りだった淡いブルーのカーディガン。母が大事にしていた木彫りの小箱。
「待って」
渉は段ボールを抱え込んだ。
「これ、お母さんの」
絵里子はわずかに眉をひそめて、それから笑った。