【前回記事を読む】いかがわしい店が並ぶ歓楽街を待ち合わせに指定され…現れたのは少女だった。「会ったばかりで不躾ですが、お願いがあります」と…
Case:C 娘の選択
「そういやお嬢。まさかとは思いますけど、葵さんに俺たちのこと、言ってないでしょうね」
「言うわけないじゃない。今どき食えないんだからこんな稼業とっとと畳めばいいのに」
「そうすっと路頭に迷うヤツらが大勢出ますからねぇ」
「自業自得なだけよ」
「手厳しいすっねぇ。今日はひときわ機嫌が悪いようですがどうしたんです。生理ですか?」
「死ね」
雛菊はデリカシーのない鬼塚に氷のような言葉を浴びせたかと思うとシートベルトを外し、膝を抱えて俯いた。
「ベルト締めないと危ないですよ。後ろからノーブレーキで突っ込まれたらでもしたらどうするんです」
「別にいいもん。昭和のヤクザ映画じゃあるまいし」
「やれやれ……。お嬢、謝りますから機嫌直してくださいよ」
「ヤ」
「どうしたら許してもらえます?」
その問いには答えず、雛菊は「今日も麗奈さんのトコに行ってたんでしょ」と言った。鬼塚はギクリと身をこわばらせる。
「なぜ分かったんです?」
「もう夜なのにヒゲが伸びてない。剃ったでしょ」
「しかしそれだけじゃあ――」
「あとガソリン減りすぎ。送迎くらいでしか使わないのに」
犯行を言い当てられた被疑者のような気分になった鬼塚は感心半分、呆れ半分に「よく見てますねぇ、お嬢は」と苦笑いを浮かべた。
「会いに行ってたことは認めるのね」
「まぁ、今さら否定してもしょうがないですし」
「元気そうだった?」
「……それはズルい質問ですよ」
鬼塚はルームミラー越しに雛菊の様子を窺った。しかし彼女はうつむいたまま顔を上げようとはしない。
もうこの話題は避けてくれるのだろうと鬼塚は胸を撫でおろした。
しかしその心を読み透かされたかのように雛菊が「大吾さん」と名を呼んだ。
「な、なんです?」
「いつになったら、私をちゃんと見てくれるの?」
背筋がこわばる。ハンドルを握っている手が汗を掻く。心臓が早鐘を打つ。きっとそれすらもお見通しなのだろう。本当に、人の情緒をメチャクチャにするのが得意な親子だ。
「お嬢。悪いことは言いませんから俺なんか見てないで、どこにでもいるような当たり前の男と一緒になってください」
「当たり前の男って?」
「そらぁ、スーツを着てネクタイ締めてパソコンつついてたり、作業着を着てヘルメットかぶって汗水たらしてるような――」
「私にとっては鬼塚みたいな人のほうが“当たり前”の男なんだけど」
「屁理屈はよしてください。俺はあなたの為を思って言ってるんです」
「……ずるい。大人はみんなそう言う」
雛菊の言うことも一理ある。幼いころから鬼塚のような男たちに囲まれて育った雛菊にとっては、たとえ他の人と違っていてもこれこそが当たり前の世界なのだ。