【前回記事を読む】散歩中、愛犬が突然動かなくなった。必死の顔で私を見てくる…なぜ?とりあえず抱き上げて体を見てみると、理由が分かった。

第二走者 醸 (ミニチュア・ダックスフント) 平成九年~平成二十二年

人間もどき

平成十年(一九九八年)の夏から、夫と私は一戸建ての家を引き払って、父と母の住む古い家に同居するようになった。醸(ジョウ)にしてみれば、古巣に戻ったことになる。

古い家だが部屋数がたくさんあり、犬も猫も人間も、それぞれ好きな部屋、お気に入りの場所があって、好きなように生活できた。

醸は台所で食事を終えると、居間に置かれたケイジの中に入って寝る。昼間は私と一緒に出勤して、樽で作られた犬小屋に繋がれている。

ある秋の日に、急に気温が下がってかなり寒い日があった。

醸は誰かれかまわず、近寄ってきた人にはぶるぶる震えてみせて、上目遣いに目を潤ませた。

家に帰ってケイジに入れようとするとさらに体を震わせて、私の顔をじっと見上げる。確かに今晩は冷え込みが厳しいようだ。

「仕方ないわね、今夜だけよ」そう言って、その夜は私のベッドの足元で寝ることになった。それに味をしめて、翌日から当然のごとく一緒に寝ると言って聞かなくなった。

わがまま息子かきかん坊の子供のようで、それから毎夜毎夜、私は醸を抱いて階段を上り、一緒に寝る破目になった。

あるとき、必死に坂道を上ろうとしても上れない夢にうなされた。気がつくと、醸がどっかり足の上に乗っていた。

冬が近づいて気温が下がってくると、醸は人の顔に冷たい鼻を押し付けるか、ペロッと舐める。布団をめくってやると、もそもそ中に潜って寝るようになった。

「猫はこたつで丸くなる」と歌にもあるが、犬まで布団に潜ってくるようになるとは。

醸は人間の感情にうまく訴えて、都合よく人間を操るコツを身につけたようだ。

ついでに、私の泣きどころもしっかり掴んでいた。醸は、あるときから、歩きたくないとなると頑として動かなくなった。地面に座り込んだきり、動こうとしない。無理にリードを引っ張ろうとすると、ずるずる体で地面との摩擦係数を高くする。

時間に追われているときは、私がひょいと横抱きして急いで車に乗せて出かけるようになった。それで横着を決め込むことを覚えたらしい。

階段は醸の体のことを思って、横抱きにして上り下りする。が、それだけでは終わらなくなってきた。