【前回の記事を読む】父を殺した男の娘と結婚させられた…「血を残すためだ」と言われたが、その後の天皇家で生まれてきた子どもはすべて女で……

第一章 揺らめく落葉

「うん。俺が産まれると、父上は母上の所には通ってこられなくなってしまった。

『もう、義務は果たした』って、父上はおっしゃったそうだ。母上は、いつも一人だった。

でも、俺が母上に会いにゆくと、母上は泣くのだ。

俺は、父上にもお祖父様にも似ているのだそうだ。母上は俺を見ると、お二人を思い出して辛いとおっしゃった。

だから、俺は母上のそばにはいられないのだ……」

稚鷦鷯は言葉を詰まらせた。

日爪は目を伏せた。

(春日大娘(かすがのおおいらつめ)様(皇后。稚鷦鷯の母)は億計様を慕っておられる。しかし、自分の父親は、愛しい夫の父親を殺した人物。

大娘様は夫に対して負い目があり、父親には怨恨があるのだろう。

そのお二人にそっくりな稚鷦鷯様じゃ。そのお顔を見るのは、辛いことかもしれぬ)

日爪は稚鷦鷯の背中を優しくなでた。

「皇子様は何も悪くないのです」

「でも、母上が泣いていたって、俺じゃあ、慰めることもできない。なにも、してあげられない」

ポロッと一粒こぼれ落ちた涙を、慌てて拭った。

(心優しい子じゃ。自分も辛い思いをしているのに、母親を思いやってくれる。それに、父親が弱っていれば、魚を食べさせてあげようとする。

まだ十歳。本当なら、まだ親に甘えていたい年頃じゃ。

それなのに、先人の犯した罪のために、このように幼い皇子様が苦しまなくてはならないとは……。己の欲望のために多くの皇子様を殺めた。その結果が、今のこの事態を生んだのだ)

「稚鷦鷯。ごめんなさい」

山田がうつむきながら言った。

「ううん。山田は何も悪くない。俺が、弱音を吐いたのが、悪いのだ。本当なら、山田は、知らなくてもいいことなのに……」

「いいえ! 私は聞いて良かったって思っている。

私、稚鷦鷯のことは、みんな知りたいのよ」

山田は稚鷦鷯の手を取り、自分の両の手できゅっと握った。そして、潤んだ瞳で、まじろがずに稚鷦鷯を見つめた。

異母姉の熱のこもった視線に圧倒され、稚鷦鷯の涙はすっかりひいてしまった。