第二章 暮れ秋の森
翌日も好天に恵まれた。
雲一つない空に暖気は吸い込まれていく。しんと冷え込んだ秋暁(しゅうぎょう)。最後の生気をふりしぼって咲く草花は露に濡れていた。
屋敷と宮を囲む柵の間に、狭い敷地がある。四季折々の草花が咲き、背の低い木が何本か生えている。稚鷦鷯の木登りの練習場だ。
今日はそこで剣の鍛錬をしていた。
「稚鷦鷯様。脇が開いています」
「わ、わかっている!」
剣の師匠は平群鮪(へぐりのしび)だ。大臣(おおおみ)、平群真鳥(へぐりのまとり)の息子である。
真鳥は幼武大王の頃から大臣を務めている。億計大王が病床に臥してからは、政(まつりごと)の実権は真鳥が握っていた。
しかし、この人物は独裁的であった。大連(おおむらじ)や連(むらじ)の意見も聞かず、自分の意のままに政治を行っていた。もちろん、敵が多かった。
息子の鮪は、性格も顔も父親に全く似ていない。穏やかな性格の若者だ。年は十八。背が高く、がっしりとした体格をしている。
稚鷦鷯は鮪に密かに憧れていた。兄弟のいない彼にとって、兄のような存在だった。