【前回の記事を読む】冷たい川に入りずぶ濡れの皇太子に、布を差し出した皇女。その瞬間、2人の手が触れて顔が真っ赤に…

第一章 揺らめく落葉

「そうなのね……。

あの、私たち、お見舞いに来たの。お父様の具合はいかが?」

「うん……」

稚鷦鷯は言い淀んだ。それを見て、日爪も問いかけた。

「前のお見舞いから間があいてしまい、気にしていたのです。本日、我らはお顔を拝見することは叶うでしょうか」

「もちろんだ」

稚鷦鷯は微笑んだ。

「父上は特に山田を愛でておられる。きっと、喜ぶよ」

「“特に”ですって? 稚鷦鷯こそ大切にされているでしょう。大王の子供の中で、ただ一人の男子で、直系の日嗣の皇子様なのよ」

直系とは天照大神(あまてらすおおみかみ)から血筋が繋がっている系統をいう。大王の一族は直系の血を繋ぎ、それを残すことが使命とされていた。

そのためには、同系の血縁での結婚は当たり前だった。母親が違えば兄妹、姉弟での結婚も問題はなかった。

「いや。俺は……」

「それに、稚鷦鷯は父上のすぐ近くに住んでいるじゃない。あなたの母上様は皇后様。私の母上なんて、妃(側室)の一人でしかないし。私は父上とは滅多にお会いできないのよ」

山田は感情的に言い放った。しかし、その言葉は、稚鷦鷯の心を傷付けた。

「近くにいたって、良いことなんてない!」

思わぬ稚鷦鷯の大きな声に、山田は言葉を飲み込んだ。

皇子の悲痛な思いが堰を切ったようにあふれた。

「父上とはほとんど会わないし。母上だって、俺を見るたびに悲しそうな顔をする。会いに行っても、すぐに向こうに行けって言うのだ。父上とも、母上ともお話しすることだってない。

俺は宮ではいつも一人だ。山田には優しい母上もいるし、日爪のじじ様だっているじゃないか!」

必死に堪えたが、涙はこぼれ落ちた。

日爪は稚鷦鷯の肩を優しく抱いた。

「どういうこと?」

山田は急に泣き出した弟に戸惑い、困惑顔で祖父を見上げた。