宮の敷地内には高床式(たかゆかしき)や竪穴式(たてあなしき)の建物がいくつも点在している。
皇族は最も奥にある内郭の中で暮らしている。内郭にたどり着くまでには、三個の柵を通らなくてはならない。
大王の住居は神殿の裏にあって、最も厳重な守りが施されている。
稚鷦鷯は日嗣の皇子であるが、父の大王とは一緒に暮らしていない。住んでいるのは母親の屋敷だ。
この時代、位の高い者たちは通い婚(夫が妻の元に通う結婚生活)が一般的であった。一夫多妻制であり、夫は気の向くままに、何人かいる妻の屋敷を訪れる。そして、子供は成人するまで母親の屋敷で育てられる。
しかし、稚鷦鷯は家の中でも母親と顔を合わせることはほとんどなかった。皇后の部屋とは離れた場所に立派な部屋を与えられ、乳母(めのと)や采女(うねめ)に育てられた。
稚鷦鷯は自室に戻り着替えをすませた。それでも、寒さで身体が震える。無意識に二の腕をさすった。
見舞いを終えた山田と日爪が、稚鷦鷯の部屋にやってきた。山田は涙をボロボロとこぼしていた。
「お父様。どうしてあんなにお痩せになったの? お顔の色だって真っ青だったわ。この前お会いした時は、お話ししてくださったのに、今日はお声も聞き取れなかった……」
山田を慰めながら、日爪も悲壮な顔をしていた。
(一つの時代が終わる……)
言葉にはしなかったが、老人は心の中で確信していた。しかし、泣いている孫の肩を抱き、
「心配するでない。天照大神様が守ってくださる」
と、優しく言った。