「皇子様が言った通りじゃ。皇子様は宮で一人ぼっちなのだ」
「どうしてなの?」
山田の問いに、日爪は困った顔をした。
「おじい様、教えて。私、知らないことが多いと思うの。稚鷦鷯のことも、お父様のことも」
孫娘の真剣でまっすぐな瞳に心を動かされた。
「そうじゃな。山田。お前も、もう十じゃ。それに、とても賢い。大王の系譜も勉強しておるようだし」
「おじい様、ご存じだったの? お母様には、女の子はその様なことは覚えなくていいって、叱られたのよ」
山田は口をつんと、とがらせた。日爪は温かい笑みを浮かべ、山田の頭に手を置いた。
「そうかそうか。
良い機会じゃ。お前にも皇子様の置かれている状況、それに、なぜこのようになってしまったのか、それも話した方がよかろう。これは、大和(やまと)の国の問題でもあるのだから」
山田は大きくうなずいた。日爪は稚鷦鷯に向き直った。
「皇子様。この子に話してもよいですかな」
稚鷦鷯は問いかけに返事ができなかったし、山田の顔も見られなかった。姉とはいえ、女の子の前で泣いてしまった。皇子として、男子としての自尊心が傷付いていた。
日爪は自分にしがみついて顔を隠している稚鷦鷯に、優しく話しかけた。
「まずは、着替えないといけませんな。体が冷え切ってしまいます」
日爪に促され、宮へと向かった。