【前回の記事を読む】明晰夢を操り、空を飛べるようになった。今日も飛ぼうと目を閉じると…いきなり人の気配がした。逃げ惑って目が覚めると…
私が空を飛ぶ理由~つばめのつばさ~
鳥スーツを見つける
東京も夜ごと涼しくなってきた。明け方は長袖一枚でも寒さを感じるくらいだ。今夜は摩天楼が林立する都心まで行ってみようと決めた。
ウィンドブレーカーを着たほうがいいだろうか。中に空気の層を作るので温かいが、風でばたばたして余計な気流を生みそうだ。スキージャンプの選手が着るようなジャンプスーツはちょっと大袈裟だし、家にもない。滑空には向いているが、両腕の動きは制限されるだろう。
何しろ飛ぶときの相棒になる服だ。クローゼットの端から端まで引っ張り出して試してみた。数年前に買ったものの、シルエットに特徴があるため試着しては着ないままだったY-3の黒の上下が目に留まる。
冬のランニング用にとWEB画面で気に入って衝動買いしたのだが、いざ着て走ってみるとどうもちがう。布地がしっかりしていて形状が保たれ、複雑な動きには向いていない。スキーウェアのようでもあり、用途がわからずタンスのこやしになっていた。
改めて広げてみると腕と上半身には余裕があり、腋にはジャンプスーツのようなたっぷりとしたマチがあった。ズボンはヒップホップをかっこよく踊れそうにの股ぐりも浅い。それでいて見た目よりずっと軽いときていた。
全て機能が飛ぶために用意されているように思えた。「君はこの日のためにクローゼットの端でずっと待ってたの?」と聞きたくなった。
私は少しでも軽くなるようにと、冬の防寒下着として愛用している黒のスポーツインナーの上下を、冬服のラックから引っ張り出す。全身の筋肉を締め付ける着心地で、反発力からパワーを引き出してくれそうだ。その上からY-3を着ると、完ぺきな鳥人間になれた気がした。すぐに外に出て、河川敷に向かった。
ひとまず多摩川から渋谷の高層ビルを経由して、東京タワーにトライしてみよう。高さは確か三三三メートルだ、さすがにまだ無理だろうか。でもいけるところまでいってみたい。
西から来た人間にとって、東京タワーは新幹線の車窓に見つけて思わず写真を撮ってしまう存在だ。帰省し上京するたびに探して、背筋をすっと伸ばす。再び都会の生活へ戻るためのスイッチのようだ。
懐かしい方言に後ろ髪をひかれながらふるさとの駅を離れた数時間後。車両は品川駅を過ぎて、終着東京駅の入線に向けて速度を落とす。ビルの間に見え隠れしながら、次第に大きくなるオレンジのツリーを見つめる。切り換えるのは明日からまたこの都会で戦うための覚悟であり、自分が選んだ場所を確かめるための儀式でもある。
私にとっての最初は大学受験だった。車窓に生の東京タワー見つけた感動は今も忘れない。それでいて東京にいるときは当たり前すぎる存在だ。こっちに住んで長いけれど、東京タワーに登ったことは一度か二度しかない。