めざせ、東京タワー
川を下り、二子玉川の街から渋谷につながる首都高速の三号線上空に進む。深夜も関係なく、少なからぬ車が東京の高速を走り抜けている。見つからないように少し高いポジションを取る。上空は電線もなければ、道路の中央を飛んでいる限りビルと接触する心配もない。高速道路は、鳥や私のような鳥人間にとっても安全な空の道路なのだ。
今夜は上空100メートルくらいに、流されないくらいのちょうどいい風も吹いている。体を水平に保つと体は風を受けて、鳥のようにすいすいと進んだ。まるで上野の美術館で見た空かけるマルク・シャガールの絵画の世界だ。
唯一の心配ごとは飛んでいる姿が人に見つかってしまうことだった。小さなできごとでもあっというまに拡散されてしまう世の中だ。鳥人間を見た人が放っておくはずもない。写真や動画に撮られて拡散されたら、真夜中に大量のパトカーが出動して追いかけられないとも限らない。
幸いにもY-3の黒の上下は夜空にマッチした。ここまで誰にも気づかれていないようだ。そもそも月のない都会の空を真夜中に見上げる人は限られている。地表は都会の道らしく街灯で昼間のように明るく、空はよく見えないはずだ。たとえ黒い鳥人間の姿が目に入ったとしても光に邪魔されて距離感もつかめない。カラスとまちがえるのが関の山だろう。
飛ぶとは風と友だちになることだと言った人がいたとか、いないとか。今ならそれが正解だとわかる。一か月前に飛ぶことを覚えた日が嘘のように、長時間飛べている自分に驚いている。風は地上ともちがうし、高さによってもちがう。風を上手に捉えることができれば、より楽に遠くまで飛べるのだ。
あっという間に三軒茶屋駅あたりまで来た。昼間は少し色あせした人参色のキャロットタワーが近く見える。タワーの上にも行ってみたいが、また今度にしよう。池尻大橋はジャンクションの丸い建物でわかった。もうすぐ渋谷駅だ。
次回更新は6月10日(水)、11時の予定です。
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